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「なんでシズちゃんがいんの?」
瞼を開けたら金髪が見えた。
「新羅は急用、門田はバイトだと。しかたねーだろ」
椅子に座るシズちゃんが面倒くさそうに言った。そんなシズちゃんから目を逸らして、天井を見る。
「何処か、遠くへ行きたいな」
「あ?」
「何処でも良いんだ。誰も俺を知らず、俺も誰も知らない所でありさえしたら」
「んで、どーすんの?」
シズちゃんは非常識にも保健室で煙草に火をつける。
「おしでつんぼのフリをする」
煙に不快な顔をしても全く意に介さない。
「おしってなんだ?」
「シズちゃんは馬鹿だね。聾唖者だよ。耳が聞こえなくて、口が利けない人間」
馬鹿にした言い方をしても、シズちゃんは怒らなかった。俺が弱ってるせいかな。
「おぉ。んなテメェはウザくなくて良いな」
「誰とも無益で不毛な馬鹿馬鹿しい会話をしなくて済む。俺に何かを伝えたきゃ、いちいち紙に書いて俺に渡さなきゃいけない。そんなの面倒くさいだろ?そのうち誰も俺と話をしたくなくなるよ」
そう。本当の孤独だ。
「じゃあ俺も一緒に行く」
「話聞いてた?俺は誰も俺を知らない場所に行きたいんだ。なんでシズちゃん連れてかなきゃいけないのさ」
「おう」
「おう、じゃないよ。だいたいシズちゃんが来てどーすんの?」
「おしでつんぼのフリする」
「シズちゃんも?」
「あぁ。そんでテメェと2人、静かに暮らすんだ。一言も喋んねーでよ。悪くねぇだろ?」
「あぁ、それは悪くないね!!」
シズちゃんの思いも寄らぬ提案に、酷く興奮した。
「山奥がいいな。犬やなんかを飼ってさ、小さな畑で野菜を育てるんだ。少しでいい。自分達が食べれる分だけでね」
さっきまでの憂鬱や欺瞞に満ちた世界への憎悪なんてモノは吹き飛んだ。
「あぁ。たまに街へ買い出しに行こう」
「それ以外は2人きりで過ごそう」
そこまで言って、急に不安になった。俺自身がシズちゃんを汚してしまうかもしれない。

「どうした?」
黙った俺を心配そうにシズちゃんが覗き込む。
「変なこと言ってゴメン。忘れて。そんなの無理だし」
シズちゃんが携帯灰皿に吸い殻を入れる。
「そうか?良いと思うぜ」
立ち上がったシズちゃんはベッドに腰掛けた。
「面白そうな夢。俺達なら無理じゃないだろ」
夢か。確かにこの夢なら俺は命を賭けれるかもしれない。俺が虚無の中で求めていた理想は随分小さいな。でも悪くない。
「シズちゃん、帰ろっか」
「そうだな」


「本当に大丈夫か?」
校門の前で心配そうにシズちゃんが俺を見る。
「大丈夫だよ、ありがとう」
シズちゃんだけは汚さない。
誰にも汚させないんだ。変わりに俺が泥だらけになったとしても。

真実とは常に自分で見て、聞いた出来事。それが自分自身にとっての真実。
なら俺は俺の真実を手に入れる。欺瞞に満ちた世界を、俺の真実で埋めてやる。
クソッたれな神様が昔言ったね。
『汝、隣人を愛せよ』
あぁ、愛してやるさ!俺なりの愛し方で。
全ての人間を愛してやる。
こんなにも簡単に解決するなんて。
俺は本当に子供だった。
裾に弾いた泥なんて、泥水に浸かればわからないさ。

だから彼に伝えよう。彼がこちら側に来ないように。

「シズちゃん!大嫌いだよ!!」




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