「俺はアンタが、狂ってるようにしか見えない。気持ち悪い」
「そう」
「そうやって、今も、誰かを不幸にすることしか考えてないのがたまらなく気持ち悪い……」


狂気としか思えない。


「いんないんな失礼なこと言うよねー、本当」
「アンタに不敬を指摘されても……正直人の振り見て我が振り直せっすよ……どういう神経してんすか」
「あははははっ、むしろ神経が無いんじゃない?」


主に口周りの感覚神経が。


「別に俺は……アンタが狂ってようがどうでもいいんすけど……ていうか、アンタの周りには、アンタが狂ってようがなかろうが気にしない奴らのが多いと思うんすけど…………ただ、騒禍さん」


彼は、欠伸をしたのか、ほんのり無機質に涙を流し。


「――最近、なんか変じゃないっすか?」


あたしはうとりと首を傾げる。弄っていた携帯から目線を上げてみると、退屈そうにこちらを見ている三月が視界に入った。
帽子はとうに脱いでいて、床に無造作に投げ出されている。麦藁のように色素の薄い髪には帽子の型がついていた。


「あたしが?」
「そうっす」
「恋?」
「違うっす」
「戦争谷騒禍の変がどうしたの」
「歴史上最悪であろう戦乱の話をしてるんじゃないっすけど」


やめてよ照れるじゃん。


「で。あたしが変ってどういうことかな」
「どうもこうもない……そのままんまのことっすよ…………」


三月は「ふあゎぁぁ……」と欠伸をした。本当に眠そうな間抜けな欠伸。まるで五月病患者のような醜態だった。あと二ヶ月は先だろうに。


「いつからかは……覚えてないんすけど……そうだな……多分、例の《蝸牛角上の争い同盟》……」
「かぎゅたん?」
「かぎゅたんが……あー……かぎゅたんと、連絡を取りはじめてから……騒禍さん、変になった」
「あんな変人と関わったらねぇ」
「違うっす……」


あたしは先の言葉を捨てた。
三月の細々とした声を拾う。


「……最初は、怯えてるんだと、思ってた…………」


定期検査で病気の悪化を告げられて、命を狙われていることを告げられて。
怯え。
悲しみ。
嘆き。
それに堪えているんだと思った。


「でも、すぐに違うって……思ったっす」
「……………」
「アンタは……自分の死に目さえ怯えすくんだりしない人間だ」


この程度で、我を忘れたりなんかしない。


「だったら、次は、……なんていうか、はしゃいでるんだと思ったんすよ」
「子供かあたしは」
「俺からしたら子供っすよ」
「アンタ年下だよね」
「当たり前じゃないっすか」
「あははははっ、膝の骨粉砕されればいいのに!」
「はしゃいでるんだって、思ってた。騒禍さんの思考回路なんてわかんないっすけど……まあ有り得ない話じゃないし」


随分とあたしをキチガイ認定してくれたものだなあ。あたしは肩を竦める。


「でも、…………これも違った」
「へぇ」
「《カンパニー》にいるとき騒禍さんはあくまで“普通”だった。あのオーナーの男の戦闘を目の前にしても、医者の男と話していても、口の感覚がなくなったと気付いたときも、アンタは、あくまで“普通”だった」


いや。


「――――抑え込んでた」



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