あたしと“へーくん”――《平和丘寧穏》との関係は何を言うまでもない。
ただの先輩後輩の間柄だ。
あたしが先輩で。
彼が後輩。
高校時代に偶然にも同一の学び舎を選んだ、言うなれば、合縁奇縁一期一会の関係である。

“せんぱい”、と。
彼はあたしを呼ぶ。
“先輩”、ではない。
イントネーションも少し違う。どこがと言われてもあたしは別に絶対音階やら何やらがあるわけでも音楽に関心があるわけでも無いからわからない。
ただ、少しばかり“せん”が高い気がする。

何故“先輩”でなく“せんぱい”なのか。

それはあたしの苗字である、“せん”そうだに、と掛けているかららしい。
漢字で書くと、“戦輩”――なるほどどうして可愛くない。
や、あたしの名前に可愛さを求められてもそんなの最初っから無いんだけどさ。

あたしが彼の苗字から、“へーくん”と呼んだように。
彼はあたしの苗字から、“せんぱい”と呼んだようだ。

あたしと中学時代からの級友である誘くんも、あたしの真似をしたのか、彼を“へーくん”と呼んでいた。
へーくんは誘くんのことを、“誘先輩”と呼ぶ。……字面じゃわっかんないなあ、“いざないせんぱい”ね!
二人は仲が良いのか悪いのか、実のところよくわかってはいないんだけど……まあ二人ともニコニコしてたから、険悪で無いのは確かだろう。

あたし。
誘くん。
へーくん。

麗しき高校時代を共にしたこの以上三名は、それぞれ特異な職業に就いた。

あたし、戦争谷騒禍は。
――喧嘩誘発屋。
誘くん、誘誘は。
――奴隷商オーナー。
そして。
へーくん、平和丘寧穏は。
――仲直り代行屋。


喧嘩誘発屋。
仲直り代行屋。


うわあ、何なのこの水と油感満載な字の羅列は。
水と油っていうか。
水と炎。
へーくんが水で、あたしが炎にあたるのかな。あたしが争い事を引き起こして、彼が鎮圧させるっていう意味で。

から。

あたしとへーくんは、全く持って馬も反りも気も合わなかった。
それは職業からもはっきりしているだろうけど、本当の本当に、合わなかった。

あたしと正反対の人は誰かと問われれば、彼を真っ先に考えてしまうだろう。

それくらい、あたしと彼は正反対だった。


――せんぱい。


彼はあたしに話し掛けた。


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