「ああ、そうだ、三月」
「なんすか?」
「お風呂、一応この部屋にもついてるから入りたかったら好きに入りなよ」
「ふゎぁ…………了解っす」


うん、と頷いて。
あたしは料理を終える。


「残り食べといて。あたしもお風呂にするから」


シャワーで済ませるつもりだし、別に自室のでもいっかな。

あたしは伸びをしながらシャワールームに向かう。

…………あっ。


「一緒に入る?」
「はあ?」
「あははははっ、ヘンな顔ー」
「騒禍さん……、一応言ってやるっすけど、世界には性別って壁があるらしいっすよ……?」
「知ってる」
「……………」


煮え切らない瞳であたしを見つめる三月に、あたしは肩を落とす。


「まあねー、あたしも自分でわかってるからさ」
「……何を?」
「あたしの裸なんて見ても誰もどうとも思わないことくらい」


胸のあたりをさわさわしながらあたしは笑う。
三月は相変わらずの眠たげな顔だったが、瞳には心なしか憐憫の色が見えた。

誘くんにも似たようなことを言った覚えがある。確か彼の場合は困ったように首を傾げて、やがて無邪気な笑顔を浮かべ思いついたように言った。
“わかった。恥ずかしいけど、騒禍ちゃんにいやらしい気持ちになるように頑張るね”
頑張らなきゃいけないほど酷いのかあたし。

あはははははははっ!


「さて、と。食べ終えたら食器は廊下に出しといてね」
「…………はいっす」


もしゃもしゃと健気にナスを頬張る三月。
あたしは「ありがとう」と言ってシャワールームへと入った。



*****



静まりかえり、暗くなった部屋。
シャワーもすっかり終え、あたしと三月は就寝に至っていた。
ベッドは一つしかないし、三月を床に寝かせるには可哀相だったので、ベッドに二人で寝ることにした。無駄にでかいんだよね、このベッド。


「あははははっ」
「どうしたんすか」


あたしと三月は小声で話す。


「あたし初めて男をベッドにあげちゃったよ。あははは、ふふ、ふふふふっ」
「何がそんなにおかしい……」
「笑える」
「意味わかんないっす」


三月は眠たそうな顔をしていた。
互いに顔を向き合いながら横になっていたのだが、正直あたしは眠くなかった。
昼間に寝たのが原因だろうね。
うーん。


「三月、何かお話をしよう」
「寝たいのに……」
「アンタ喋って、どうせツマンナイ話しかしないんだろうけど」
「なんで騒禍さんってそんなに不貞不貞しい態度とれるんだろ、って時々思うっす」


実に失礼なやつだね。



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