脳みその細胞は全て空中分解され、あちらこちらへと散り散りになり、思考回路に着地しようとしない。風解するみたく舞っていて、しかもふわふわと潰れていく。脳内乃至脳外にあるであろうアンテナの感度は最悪の状態だが、視界だけは良好。しかし意識は幽霊船に匹敵する。ぼっやぼやだ。なんだこのあべこべ感。

べったべったと華麗に千鳥ステップを踏みしめる道路はアスファルト百パーセント。今横切った公園の中にあったアスレチックの色とは正反対に、極彩の“ご”の字も見当たらない色気ゼロの黒色だ。もっとムンムンと色気を醸し出すべきだ。そんな道路を歩くのは真っ平御免被りたいけど。
俺の言い分が超大多数意見であると信じたい。多数決のご時世だ、路面をセクスィーにしたい願望で自身を腐乱させている人間どもが過半数を占めれば、今踏み締めているアスファルトにノーブラノーパンを強いるのは目に見えている。ああ恐ろし! 公序良俗の意識は今何処!?


「ゲゲゲゲゲ…………ゲッツ!」


――――キマッた。
ポーズまで決めて、華麗に前髪をかきあげて見せる。
完璧すぎた。
ムービーに録れるレベルだ。
全国ネットで放映されていたなら今頃俺のファンで世界中が熱を帯びているに違いない。人口熱帯の完成だ。全員毛むくじゃらなら熱帯雨林、泳ぎが得意なら熱帯魚あたりが無難。

しかし、そこで俺は気付くことになる。

絵の具やクレヨンをぐちゃぐちゃと混ぜ捏ねたような真っ暗闇の中、ぽつんとつっ立っている人影。
蛾と蛾モドキと蛾らしきものが犇めく街灯の照明に照らされて、克明な影を引きずっていた。
俺との距離は約十メートルといったところだろう。まあ俺が歩みを止める気配は拍手喝采レベルで皆無なのだから、その差は徐々に埋まっていると言っても過言ではあるまい。

その人影を、よく観察してみた。

体型は俺よりも小柄だ。一回りは優に小さくそして細い。でもどこか丸っこく見えてしまうのはその衣服に原因があるだろう。まるで布をありったけ被せたかのようなファッションだった。カーディガンの上にパーカー、パーカーの上にジャケット。季節が季節なら「こいつアタマおかしいんじゃねえの」と駅前の女子高生に後ろ指を刺されること請け合いだ。下はパッチワーク生地のロングスカートで、裾からはみ出した棒切れみたいな足にはアンバランスに無骨なシューズ。全体的にだるんだるんしている。だるんだるん。ダウンタウンに音が似ているな。従兄弟か何かだろう。


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