「ああ、そうだ、何か食べる?」
「小豆先生からの差し入れ。紅玉とジョナゴールドとサンふじがあるぜー」
「全部林檎じゃないか」
「メロンとかもいいかな、って思ったんだけど、俺黄緑色って好きじゃないんだよなあ」
「メロンが苦手ならまだわかる。でも黄緑色が好きじゃないってなんだ。そんな理由で夕張を諦めたのか。お前みたいなやつがいるからあそこはトンデモナイことになったんだぞ。自分が何をしているのかわかっているのか?」
「むしろ自分が何を言ってるのかわかってるの? とにかく食べようじゃないか」


遊馬の一言がピリオドだった。
朽崎が健気にも「私が皮剥きますね」と立候補する。特に競走馬もいない極めて倍率の低いこの戦いを制した朽崎は、秋の持っていた紙袋から林檎を一つ取り出した。なんの種類か全くわからない。色味と光沢から、ジョナゴールドと推測。


「サンふじですね」


サンふじでした。


「並木さん、うさぎさんとモアイと織田信長、どんな風に切ってほしいですか?」
「織田信長ってなんだ」
「あっ、でも食べやすいように皮は全部剥いたほうがいいですよね。ごめんなさい」
「謝らなくていい。織田信長ってなんだ」
「少しお待ちを」


織田信長ってなんだ――そう続けようとした瞬間、朽崎はどこからともなく鋏を取り出す。一度目に俺に向けてきたちゃちな鋏でもなく、二度目に俺に向けてきた殺人的な鋏でもなく、包丁さながらの滑らかさが際立つ青い柄の鋏だった。
何故鋏?
そう思う暇もなく、朽崎は鋏の刃を林檎に突き刺した。一瞬だった。取り付く島もないとはまさにこのことだと思った。へたを深くえぐりとり、器用にも取り出す。そこからは、神業も同然だった。鋏を開き、開いた内側の刃で上手に皮を剥いていく。銀色が侵入するごとに赤の帯が長くなっていって、その帯はごみ箱へと落ちていった。帯は途中で切れることなどなかった。そしてどの箇所も太さは揃っている。実に見事だ。あっぱれだ。蜜を吸った薄い色の果実が姿を現す。芸術的に真ん丸で歪な傷は一つもない。よくもまあ鋏でここまで切れるものだ。俺は感心した。

芯を削り、手頃な大きさに切り揃え、五分も経つか経たないかのうちに、林檎は皿の上に盛られていた。


「…………すごいな」
「刃物の扱いは得意なんです」


朽崎は鋏をシュッシュッと開閉する。
普通に包丁は使えないのか。
ワイルドすぎるだろ。


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