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俺もとい、並木深夜(なみき・しんや)が語り部を勤めさせて頂く。願わくばどうか声援を。拍手も付与してくれると非常に助かる。たおやかな薔薇を一本投げかける演出も捨て難いが、如何せん予算が足りないだろう。今回は目をつぶり、次回に期待を寄せておくことにする。

俺の紳士っぷりを堪能し終えたところで。
さて、皆さん。

芥川龍之介の従兄弟の孫の二軒隣の三代目の再来と謳われる、この並木深夜が語り部となるのだから、もうなんの心配もいらない。俺に着いていけば未来は確実だ。よく見てみれば燦然と輝く太陽に見えなくもない白熱灯のもとへ誘ってみせよう。
灯台下暗し?
そんなのはまやかしだ。
イエスまやかし!
君達は金魚の有るか無きかの尻の穴に厚かましくも小汚くぶら下がっている金魚の糞のようなものだ。瞬間接着剤よりも強固な縁により、迷子になる暇もなく俺のストーリーに引き込まれるだろう。その引き込み方と言ったらスカウトマンも請け合いだ。俺のテクニックに魅せられたなら特別に講座を開いてやるのも吝かではない。文は口から。よく言う噺じゃないか。

だが、俺の幸先に暗雲を齎すような存在を先ほど見掛けたとの通報があった。
許せないな。
もし再度見掛けたら並木深夜まで。完膚無きまでにそいつをとっちめてやる。ハニーボーンをびりびり痺れさせて耳たぶをびよびよ伸ばしてやるのだ。
我ながらなんと非情な刑罰!
超カッコイイ!
こんな残酷さと紳士のような包容力を兼ね備えた俺に惹かれるのは痛々しいほどわかるのだが、それは有り難迷惑無限大乗、ご遠慮頂きたいのが本音である。なんてったって、俺はうら若き紅顔の十七歳。罪を作る男になるにはまだ早いと言うものだ。許して!

今現在の時刻は十九時半。
丁度アナログ時計の針がよく見たら“へ”の文字型になっているころだ。
“よく見たら”と付くくせに何が丁度なんだ、と思った貴方。素晴らしい、合格だ。
これで平仮名と片仮名はバッチリだな。
ただ漢字には気をつけろ。一歩間違えなくても下半身から噴き出すガスへと化す。
ぷっ。

俺は人気の少ない街道を歩いていた。
宵闇が深まり空から暖色が消え去った硬質なる夜。都会でも田舎でもないが、もうこの時代ではある程度の場所では星空は期待出来ないに違いない、そして今いるここも例外ではないのだ。貧相な光り方をするオリオン座みたいな粒の羅列が視界の端で泣いていた。
はて、本当にオリオン座だったか。


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