「だから出かけるのはあんまり得策じゃあないね」
「そうか……残念だな。俺達も午後から外に出ようと思っていたんだが」
「はあ……まったく深夜まで一体なにを、って、えっ? “俺達”?」
「はい、そうなんです!」


と、そこで朽崎が元気よく答えた。その柔らかく白い両手の平をいじらしく重ねて、至純至精の微笑を浮かべる。顔半分をマスクに覆われているのを心底悔やまれるような発色見目麗しい頬だ。首を小さく傾げる朽崎は嬉しそうに続ける。


「私と並木さんで出かけるんです」
「朽崎が買い物に行くみたいなんだがなんでも俺に付き合ってほしいらしくてな。大した予定もなかったらオーケイした」
「…………呆れた」


遊馬はポイと投げ捨てるように呟いた。脇では秋が「じゃあお土産にUNO買ってきて」だの宣っている。否見の表情は相変わらず読めないが、多分水色のツチノコの生態について考察しているのだろう。今の奴の様子を見れば馬鹿でもわかることだ。


「なんだ、遊馬。そんな磯海綿のような顔をして」
「アメフラシみたいな顔をした君に言われたくはないね」
「心外であり侵害ですね、遊馬崎さん。並木さんはどちらかと言えばナマコに酷似した顔立ちをしています」
「朽崎、その発言は割と遊馬と同じくらい心外で侵害なんだが」
「僕が言いたいのはね、二人とも。もし刺されでもしたらどうするんだ、ってことなんだよ。たとえ君が血を流して倒れていたとして、僕にはどうこうもできる力なんてないんだからね」


遊馬はまるで見放すように俺に言う。憎らしいとはいえ親友にそうも辛辣に当たられるとほのかにこたえるものがあった。だがほのかすぎて次の瞬間にはたちまち忘れてしまった。若年性認知症だったら怖いな。最近見つけた徳川家の埋蔵金の在りかまで忘れかねない。忘れないように覚えておくとしよう。これで完璧だ!


「大丈夫ですよ」


朽崎は、吹き飛ばすような笑顔で、遊馬に返した。
百合の花の声が確信に満ちた調子で言葉を紡ぐ。


「いくらなんでも、並木さんを刺すようなことはまずないでしょう」


その一言に俺は頷く。
それもそうだ。
この屈辱的なまでにナイスガイな並木深夜に刃を向けるなどそんな不届き者がいてたまるか。黄色い歓声を投げ掛けられるならともかく赤い出血を促せられる道理などあるはずがない。それは切り裂き魔でも同じことだ。蚊だって俺に向かってはこない。
わかってるじゃないか朽崎。
素晴らしい。
あとで花丸スタンプをあげるとしよう。んむ? よくよく考えてみたらそんなスタンプなど持っていなかったな。こいつは失敬無礼に非礼。


「そうかい」


遊馬は折れたように呟いた。その一言に満足したのか、朽崎も目を薄くし微笑む。


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