成る程ね、と、遊馬は薄く目を見開いた。もっと驚くとか怯えるとかあってもいいはずなのに、遊馬はある程度予測できていたような目で、彼女のその顔を見つめる。


「そういうことかい」
「はい」


二人は神妙な顔つきだった。その神妙さと言ったらおならを我慢している時のカバが如く。げっぷを堪えている時のモモンガが如く。
正直、俺は全くついていけない。絶賛ムード的にロイヤルストレートボッチを喰らっているしフォーカードで揃えられなかった一枚並のハブられ方をしている。なんだこれ!
朽崎は再度「貴方は何者なんですか」と問い掛けた。その質問に遊馬は妖艶に微笑んで「さあね」と返した。
サアネとはなんだろう。ヤマネの従兄弟かもしくはアキアカネの姪っ子だろうか。俺は遊馬がそんなものに見えたことはないし彼は紛れも無い人間に違いなかった。
ただ一つ言えるとしたら。どうでもいいから俺を話に混ぜてくれ。べっ、別に一人ぼっちにされて悲しいとかそんなこと、思ってないんだからね! の逆! 超悲しい!

朽崎は眉を寄せて「……そう、ですか」と呟く。スルリとマスクをかけた。思い出したように横目で俺を見遣ると小さく微笑んでくれた。

さっきまでの話の流れ訳がわからなかったので、とりあえずウインクしてみたら、何故か赤面された。俺のウインクはチャッカマンか? 今度花火に向けてウインクしてみようと思う。





A

「料理をする人は皆“何作ってほしい?”と聞いたとき、“なんでもいいよ”と返されることこそが一番困る。“なんでもいいよ”が意思であるのに対し、尋ねた側が求めているのは返答たる要望だからだ。しかし、僕が先週君達に何を“作りたい?”と尋ねたとき、君達は“なんでもいい”と答えた。本当に困ったものだ。思案の結果カップラーメンに相成ったんだけど、カップラーメンを侮っては欲しくないのが本音だね。さっき“何を作ってほしい?”という質問を挙げたわけだけど、あれでもし“カレー”と答えたとしよう。さて……カレーとカップラーメン、どちらがより美味しく作るのが難しいのかわかるかな? 答えは断トツでカップラーメンだ。具材に個人の応用の利くカレーと、材料が元から用意されていて皆一様にある一定の味しか再現し得ないカップラーメン……………比べるまでも無いね。カップラーメンをより美味しく作るのは本当に困難なんだ。実に学び甲斐があるだろう? つまり、僕が言いたいのは、今日の調理実習はカップラーメンです」


最早前置きが掌編小説だな。

俺と遊馬と朽崎はドアの前で呆然とする。

授業は余裕で遅れてしまった。開始時刻から九十度程時計の針が進行したころの時刻だった。朽崎が遊馬に自らを口裂け女であるとばらしてから、どことなくだが空気が軽くなった。遊馬は彼女に怯えると思っていたのに、どうやらそうではないようだった。朽崎も、遊馬の『正体』とやらがわからず終いだったというのに、例の奇怪な話をしていたときの眼差しを捨てている。まだ落ち着きの無さは残るものの、端から見た分では初対面故のそれに等しい。じゃあさっきまでのは何だったんだ。


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