遊馬は相変わらず、疑わしきはガンガン罰しちゃおうぜ、な眼差しで俺を見ている。下世話な好奇心が加味されているようにも過保護な不審感が加担されているようにも思われる。でも大体はマイナスに振り切ったイメージだった。信用なさすぎる俺。


「――――すみませんが」


と。そこで朽崎が声をあげた。百合の花のようにたおやかで、歌声かと思わずギョッとしてしまう。ステップを踏みながら階段を上るような、軽やかなソプラノ。耳障りの良すぎるその声は凛々しくて、いつまでも聞いていたくなるような陶酔を孕んでいたが、その声に反して彼女の眼差しは針のよう。遊馬を射抜いて離さない。
遊馬は小慣れたような微苦笑混じりの無表情だった。遊馬の肌の青白さも相俟って、幽霊のように不気味だった。

口裂け女と幽霊。
嫌な組み合わせだな。


「なにかな」


もう俺達は歩みを止めている。
時間は切り取られ、妙な緊迫感があたりに充満していた。


「遊馬瀬さん…………貴方、一体何者なんですか……?」


たおやかな声、の筈だった。
俺が初めて聞いたときと変わらない、心の奥が光の粒で溢れるような声だったというのに。
まじでラジオから流れているかのようにノイジーで、それでいて粗く重く響いた。口いっぱいに砂利が広がったみたいだ。
急な様変わりに俺は目を瞬かせる。
そして、さっき朽崎が言った言葉。

貴方は、一体何者なんですか――――。


「随分とご挨拶だね。そういう君は一体何者なのかな」
「朽崎無言だろう。さっき名乗ってたじゃないか」
「ああ、すみません。非礼が過ぎました。自分のことも明かさずに他人を問うだなんて。十分な非礼、重ねて無礼でしたね…………ごめんなさい」
「いい子だ。いい子は好きだよ。仲良くしたいものだね」
「全くです」
「そうか、無視か」


と――そこで、まさかのアクションが起こる。

俺に初めて出会ったときに朽崎がそうしたように、遊馬に対し彼女はマスクを外して見せる。やおら過ぎた動作であるのに、それは酷く刹那的で。
俺はぶわりと鳥肌が立った。

月光に照らされる、朽崎のその顔。

数時間前に晒した美しさとは比べものにならない。アルコールが抜けて鮮明になった意識に、彼女の容貌が飛び込んでくる。先程見た彼女よりももっと綺麗に見えるではないか。わあ! 超ビューヒホォー!
自ら発光しているくらいの煌めきを帯びたている。月明かりに晒されたローズクォーツみたいな頬。はっきりとした黒い睫毛に引き込まれる瞳。可憐そのもので、美しさ以外何も見出だせない見目をしているというのに。その口元から耳にかけての裂け傷は、彼女の顔を痛々しいくらい蹂躙していた。


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