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“口裂け女”をご存じか。

都市伝説。
巷談俗説。
街談巷説。
道聴塗説。

通行人に話しかけ、「わたし、きれい?」と尋ね、「きれい」と答えれば、「これでも?」と自分のマスクを取り、耳まで裂けた悍ましい容貌を晒し、逃げたり叫んだりしたら殺されてしまうという都市伝説。ちなみに最初の段階で「きれい」以外の回答でも殺されてしまう。どんなヤンデレだ。むしろ独裁者すぎる。アンリーズナブル!
口が裂けた原因としては整形に失敗しただとか歯医者でやられただとかがあるが、俺個人として最も有力に感じるのは、手術中に医者のポマードのあまりの臭いに顔を逸らしその弾みで口の中にあった刃物が口を裂いた、というもの。これなら、口裂け女が『ポマード』と言うと退散する、という設定の理由にも見事合致する。口裂け女にとってのトラウマ的存在であろうから。
ちなみに俺は、その『ポマード』という必殺技を使わず、口裂け女からの難を逃れた人間ということになる。実にめでたい。会わないほうがめでたいぞ、なんて邪推なことは誰も言うまいな? 昔の偉い人は言っていたぞ。なんて言っていたかは忘れたがな。俺ったら超お茶目! アイアムハイパーオーティーアイ! そういうオチ。


「びっくりしました、並木さんも摩訶不思議高校夜間部に通われていたんですね」


そして目の前の口裂け女こと朽崎無言は、まさかのまさかでクラスメイトだった。難を逃れた先に待ち受けていたものが、食パンくわえて曲がり角でぶつかった嫌味な相手がまさかの転校生でした級のラブコメ的展開になるとは。

俺達は校門を攀じ登っていた。
真夜中十二時に夜間部の授業の為だけに校門を開けることは許されないのか、この校門を正規的な意味でくぐったことは一度もない。それは同じ夜間部に通う遊馬も同じだし、転校してきたばかりの朽崎もしかりだ。
その華奢な体でどこまで攀じ登れるのか不安だったが、案外運動神経は良いようで、俺や遊馬が杞憂する間もなく、彼女は校門へと攀じ登っていた。ただ降りるときはジェントルマンスピリットを発動させ、俺と遊馬は彼女の手を取った。
柔らかいっ!
マシュマロみたいな手だ!
今まで触ったものの中ではパンチパーマの次の好感触!
ふわりとスカートを靡かせ、彼女は優雅に着地した。たおやかな声で「ありがとうございます」と笑ってみせる。


「まさか同い年とはな。初めて朽崎と会ったときはもう少し年上かと」
「大人っぽいってよく言われます。大人っぽいというか、大人しいが正しいんですけど。そういえば並木さん、あのあと気を失っていたみたいですけど……大丈夫だったんですか?」


わかってるなら助けて欲しかった。おかげで俺はアスファルトと長距離擦れ合う何が楽しいのかわからんプレイをさせられた。


「まあな」
「なら良かったです」


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