そうなった日

まだ物心も付かない位オレが小さい頃。
両親は離婚し オレは母親に引き取られた。

必要最低限の食事と居住スペース。
朝帰りする着飾った母親。
学校なんか行かせてもらえず 今の知識は適当に本から得たものが多い。

やることの無いオレは外へ出て宛もなく徘徊しては小遣いを稼いでいた。
ようはケンカだ。
最初は特に何もなくただの散歩だったが 時間のせいか 目付きのせいかよく絡まれて気付けばケンカが強くなった。
別に金は必要なかったけどケンカの売られ損は気に食わなかったから抜き取っといた。

「ただいま」
もう明け方だがまだ母親は帰ってきていない筈だ。
今の挨拶も"帰ってきた"と自分が納得するための言葉でしか無かった。

ムワッ…。

生暖かい空気。
鋭い鉄錆びの匂い。
いつもとは状況が違った。
その時のオレが一番近いと思ったのは ケンカの後の惨状。
でももっと匂いが強い。
怪我くらいじゃこんな匂いは立たない。

「おや お帰りなさい」
予想に反して部屋の奥から返事が返ってきた。
知らない 若めの男の声。
「今日の俺は気分が良いんで見逃してあげましょう。では」
男の顔は暗くてよく見えないが 楽しそうな そんな声だった。

あっけに取られるオレを無視して男は窓から出ていってしまった。

残されたオレは時間が経つに連れ我に返っていった。
そこでゆっくりと男のいた 匂いのもとへ歩んで行く。

そこには母親が転がっていた。

正確には母親らしき塊 だったが。

顔は何処にあるかも判らず 今日着ていたのであろうドレスは見る影もなく血に濡れている。
至るところから あの男がついさっきまで楽しんでいたのが伺える。

そんな事はどうでもいい。

あの男が誰だとか これからどうしようとか 母親が死んだとか。
そんな事気にする余裕もない位

惹かれる。引き寄せられる。

あんなに美味しそうな肉が在るのに。
喰べないなんて。

「っ!?」
自分は…今何考えた?
死体を 母親を見て
オイシソウ?
あり得ない
あり得ない
あり得ない あり得ちゃイケナイ。
そう思っているのに震える手が伸びる。

止められない。

ならせめて。"血だけ"に…。

暗示の様に繰り返しながら 床に拡がる血を舐める。
甘い。予想以上に。
何よりも。ナニよりも。
甘く クセになる。

それはまさに麻薬のよう。

気付けば赤い光と共にサイレンが近付いていた。
誰かが警察を呼んだのだろう。
忘れていたがこの部屋から漂う異臭は 普通に考えたら異常だ。
気付いた時には逃げ出していた。
犯人じゃないし 捕まる事は無い筈なのに。
怖かったんだ。

それが初めて血を舐めた日。
それからは決まった家は無くなったが大した変化なく生きている。
日常化したケンカで血を貰うのは最初こそ戸惑ったが 要領を得た頃には数少ない楽しみになっていた。

そんな毎日の中である日出逢ってしまったんだ。

あの 気狂いな神父サマに。


end

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