空白の時間 1
第三者(人殺しさん)視点
俺は人殺しだ。
ついさっきの事 所謂痴情の縺れってヤツで相手を刺し殺した。
"殺すつもりはなかった"
発作的犯行。
正に俺はソレだった。
気が動転し 返り血を浴びナイフを握ったまま飛び出した。
住宅街の直ぐ近くで人気が無いのを良いことにそのまま踞る。
浅く呼吸を繰り返していると
「大丈夫ですか?」
と声を掛けられた。
驚いて顔を上げると男が立っていた。
買い物帰りかレジ袋を持ち 黒のタートルネックに細身のジーパンという比較的ラフな服装だった。
声を掛けられてなければ女と間違えてしまいそうだ。
「大丈夫ですか?」
男がもう一度聞いてくる。
ナイフや返り血に気付いて無いのか。
このままやり過ごし居なくなってから動こうか…
否 この男を放って置いて良いのか?
事件が明るみに出れば同じ日の近い時間帯にここに居る俺は怪しいだろう。
幸いこの男さえ黙らせれば目撃者は居なくなる。
ならば―――
おもむろに立ち上がりナイフを目の前に突き出す。
「テメェん家連れてきな」
取敢えずの隠れ蓑にさせてもらおう。
殺すのは要済みになってからでいい。
「あのぉ…」
男は困ったような声を発した。
何故か恐れは感じられない。
「処理はちゃんとした方が良いと思いますよ」
「は?」
「錆びたら切れ味悪くなりますよ?
あっ もしかして貴方も刃こぼれしたナイフで敢えて楽しむタイプですか?」
男はベッタリ血の付いたままのナイフを気にしているらしい。
「まぁ人の趣味に興味ないんで。行きましょうか」
呆気に取られていると「早く来て下さい」と急かされた。
着いた其処は教会だった。
当たり前の様に男は入っていく。
「ただいまマチクン」
そう言って少年に袋を渡す。
「おかえりなさい。すいませんわざわざ」
「いえ。私が食べたいと言ったんですから」
俺の存在を無視して二人は夕飯の話をしているらしい。
「そう言えば神父サマのお客様です。礼拝堂にいます」
少年が思い出したように言う。
「いつもより早いんですね」
「えぇ。オレは夕飯の支度しますんでそっちお願いしますね」
「判りました」
「あぁ。お客と言えばこの方今日泊まる様なんで 夕飯この方の分も作ってあげてください」
やっと思い出したように俺の話が上がる。
「…判りました。出来たら呼びますね」
そして俺は少年に部屋へ連れてかれた。
椅子に座らされると 少年は台所へ行った。
「なぁ」
「何ですか」
「俺は人殺しだ」
「見れば判ります」
「怖くねぇのか」
「確かに。人殺しには初めて会いました」
少年は料理の手を止めることなく答えた。
やはり恐れた様子は無かった。
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