発覚しました。

ヘマトフィリアとバレた日の話
「ではマチクン いってらっしゃい」
「はい。行ってきます。昼食は冷蔵庫に入ってますから」
日課となった散歩に出掛ける真知。
「判りました。気を付けて下さいね」

住宅街を抜けコンビニに寄ったり公園へ寄ったり。
あてもなく歩き その後は夏にはほぼ毎日お邪魔していた図書館に行く。
学校に行ってない真知の知識はここで培ったと言って良い。
ただし活字は好きなのだが 目に付いたものを片っ端から読んでみるために偏りの有る知識な事は否めない。
今日も絵本から科学誌 果ては世界の呪術まで。
最近では外国語の小説なんかにも手を出している。

パタン…。

「…そろそろ行くか…」
手に持っていた本を閉じ 元の場所へ戻す。

これからが散歩の醍醐味

買い食いだ。



真知が適当にぶらついていると案の定声を掛けられた。

「ちょっとツラ貸せ」

カツアゲかリンチか…どちらにせよケンカを売られた。
腕に自信が有るのか 一人だ。

「良いですよ?」

買い取りましょうか。
返却不可で。



…………弱っ!

そいつは見かけ倒しで弱かった。
族に入ってた人達と比べるなら
三下まで雑魚じゃないまでも 幹部には手が届かない位。
だから 基本は一般人に分類されるであろう真知に安いケンカを吹っ掛けたのかもしれないが。

勘を違えたせいで相手の力量より強く返してしまったお陰で 見事に気絶している男。
同い年位の学生だろう。

「じゃあ早速」
男の前にしゃがみ 蹴り挙げて出来た頬の傷に舌を這わせる。

如何せん血を貰う傷口を作ろうと思うと顔が多くなってしまう。
流石に服を捲るわけにはいかないし 手は殴ってくるので意図して怪我を負わせるのは難しい。
同意なら指先でも切って貰うのだが。

ついでに首は出血多量とかで死亡されては困るので狙わない。
と言ってもよくケンカを売って来る不良校は学ランのため 詰め襟が邪魔で攻撃出来ないのだが。


こんな所通行人に見付かったらヤバイ奴だよな…。
真知がそんなことを気にしながら舐めていると
「何やってるんですか?」
不意に後ろから声がした。

周囲には気を付けていた筈なのに気付けなかった真知は肩をビクリと震わせた。
「マチクン?」
そこで止まっていた思考が動き出す。

自分の名を呼ぶのは一人しかいない。

恐る恐る振り返るとやはりいたのは
「…神父サマ」
だった。

「で 何してるんです?」
なおも聞いて来る神父サマに
「血を貰ってたんです」
正直に答える。
「舐めてましたよね?美味しいんですか?」
興味津々と神父サマは真知の元にしゃがみこみ覗き込む。
「えぇ。この人も意外と甘くて良かったです」
「…血って鉄の味しかしないと思うのですが…。」
神父サマの呟きに「普通はそうですよね」と呟き返した。

相手は殺人鬼。
しかし普通の味覚を持った人間だ。
同じ人間を食料の一つとしている自分より余程 人間らしいのではないか。

真知がうつ向いていると神父サマが「もう舐めないんですか」と聞いてきたので 見ると丁度血も止まってた。
「じゃあもうここに用は無いですね」
買い物付き合って下さい。と言う神父サマはあまりにも普段と変わらなかった。

「あの…引かないんですか?」
「何に?」
「人の血…」
「舐めてたことですか?」
自分から聞いたのだが急に不安になり 小さくうなずく真知。

「それ 楽しみで人を殺してる私に聞きます?」

少し呆れた様な声にまた震える。

「私の趣味が人殺しであるように マチクンの好物が血だった…というだけの事です。
人の味覚もそれぞれなんですよ?大多数に理解されない嗜好なんてごまんと有りますから」
安心して下さい。と優しく頭を撫でらた真知は 今まで悩んでいたそれが随分楽になった気がした。

「取敢えず この嗜好は名前が付けられる位には大多数ですよ」




「何を買いに来たんですか」
大通りに出た真知は聞いた。
「台所の電気が切れたようで」
神父サマは答える。

そんな会話をする二人がオカシイと誰が思うだろうか。
真知がさっきまで血を食し 神父サマが昨日殺人を犯したと誰が気付くだろうか。


そして 人が行き交う道で不良を避けて歩く人が殺人鬼に道をたずねた。


end

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