溺愛
2

「ソナタは水死体を見たことがあるかの?此処等にも海流に漂い偶に流れて来る。腫れて膨れた不様な姿じゃ」

そう成っても後悔しないのか。魔女の瞳が私を嘲笑う。

「構いません。彼女の姿をこの目に一瞬でも映せたならば、私はそれで満足なのです」
「ほう…そうか、面白い。成らばもしもソナタがアヤツと結ばれた暁にはソナタも正真正銘の海に棲まう者にしてやろう。どうだ?無理だったらば魔法の効力を失ったソナタは溺れ死ぬ」

魔女が笑う。

「今度は岸に着けるかの?それとも海底へ更に沈み行くか?」

愉しそうに笑う。

「どうでしょう。私は何処迄も溺れるだけですから」

私も笑い返す。








魔女の条件を呑み、陸で持て囃された姿を失った私は、ぶよぶよとした脹れた体を海流に流されていた。
暫く漂うと魚だけでは無く、人魚達の姿も見かける様になった。

「まぁまた人間の死骸よ」
「この間の嵐の残りか」
「見るに耐えないな。さっさと何処かへ行って欲しいものだ」

私を見た者達からは、今まで無縁の雑言が囁かれる。人魚と人間で醜美の感覚が何れ程同じものかは分からないが、大層な歓迎を受けながら私は流れて行く。

「───ぁ、」

生き物の姿が疎らになる頃、岩陰を過ぎようとした時に彼女の姿を見付けた。
咄嗟に岩にしがみ付き隠れようとしたのだが、幸か不幸かそれが彼女に違和感を与えたらしい。
彼女は訝しげに此方へ泳いで来る。

逃げようにも不格好な体では上手く動けず、肩の辺りを捕まれたその反動で私は彼女の方を向いた。

「………」

物体の正体が私───水死体だと分かり眉をひそめられる。
穢いものに、それも触れてしまったのだから不快感は酷いものだろう。
嗚呼。

「…すまない」

気が付いたら口がそう動いていた。

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