あきのこない、
あきがくる。

続き/彼視点
待ち合わせの場所に彼女は来ない。

例え何年経とうとも、どんなにお婆ちゃんになろうとも、彼女の事を見つけ出すのに。

そうも思ったけれど、過ぎ去った年月を考えると流石にもう無理なのかも知れないと僕は溜め息を吐いた。







その日も変わらぬ彼女との再会が果たされるのだと思っていた。

いつもの様に銀杏の木の下に先に着いている彼女が僕を見付けて、笑顔で手を振りながら駆け寄って来る。
僕は飛び込んで来る彼女を抱き締める。

飽きもせず毎年繰り返していたそれを楽しみにして僕が乗った電車は───脱線事故を起こした。

僕も生死の境をさ迷って、

でも助からなかった。

事故から数週間経った日の事だった。


今年は行きそびれた。
それが凄い後悔で。

彼女を待ち惚けさせてしまっただろう。
それが凄い不安だった。





僕が死んだその年、約束を初めて破ってしまった僕は急いで成仏した。

早く彼女に会いたかった。
会って、謝りたかった。

約束を守れなくてごめん。と。

でも幽霊じゃ彼女は僕を見られないし、僕は彼女を抱き締めることができないから。

少しでも早く生まれ変わって、彼女の元に行きたかった。
彼女と共に、生きたかった。

どんなに歳が離れて生まれ変わっても、僕は彼女を愛していられると確信があったから。



例えばあの銀杏の木が何処か遠くに有っても。
時間は掛かるが彼女に会いに行けると思った。

でも幸いに、生まれ変わった場所はあの近所だった。

銀杏の木に寄り掛かり、今の僕と同い年位の小学生達を眺める。

僕が再びここに来られる様になってから毎年、否、毎日の様に見に来るのが日課になっていた。

しかしこの木の下に誰かが来ることはなかった。

勿論彼女も。



初めは奇跡的なこの境遇をどうやって彼女に伝えれば信じて貰えるか、考えるだけでわくわくした。
しかし時が経つにつれ、一度も姿を現さない彼女は最早、新しい人生を歩んでいるのだろうと諦めかけた事も有った。

二度目の人生が終わり、三度目の人生が終わり。
幾度となく繰り返す転生に、彼女はもう生きてはいないだろうと悟った。

しかし根拠の無い淡い期待が僕をこの木に引き寄せる。

案外、あの子供たちの中に僕と同じ様に彼女が転生しているのではないかと期待してしまう。

万が一この期待が合っていたとしてもどうだ。
それはもう彼女とは別人なのだろうに。

莫迦な考えに溜め息を吐くと、不意に頭を暖かい空気に撫でられた気がした。

顔を上げるともう他の子供たちは親に連れられ帰っていて、ここには僕しかいないことに気が付く。

嗚呼もう、僕も帰らなくてはならない。

あの日からずいぶん変わった近代的な建物を眺めながら、僕は改めて決意する。



これは約束を違えた僕の贖罪。

これから先、例え何度人生が終わっても。
必ず僕は生まれ変わってここに来る。

彼女と再会できるその日まで。


end

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