オズの監獄
無声祝詞-ムセイシュクシ-

番外編/カカシの過去話
この単調な鋪装された道を俺は香水のキツい女と歩く。
この単調な鋪装された道を俺はブロンズ髪にブランドバッグの女と歩く。
この単調な鋪装された人生(みち)を俺は俺を切り売りしながら歩く。

金に困ったことはない。女がいくらでも貢いでくれるから。
寝床に困ったことはない。女がいくらでも泊めてくれたから。
いつでもその身一つだった。余った金は総て親に渡すから。
親は賭事で使い込んだ。どんなに持って行っても次行けば借金に変わっていた。
俺は数多いる女からの無限の愛と ただ一つその女達の扱い方だけを伝授して金のなる木に仕立てた親の欲望によって生かされている。
俺の意思など初めから無かった。

だから俺は空っぽ。

ある日珍しく金を置きに行った次の日に親に呼び出された。金をまだ集めれていない俺を親が必要とした事がなかったから。何も判らぬまま 微かな希望だけ持って家に行った。
そこには絶望が待っていた。
ゴミの散乱した荒れた室内。雑多なその光景は変わらなかったがいつも金を待ちわびる親がいない代わりに"ケイサツ"が待っていた。
俺が使い物になるまでに仕出かした犯罪の証拠と借金の請求書を残して。金と親は消えていた。

俺は要らなくなった様だ。

金を集めていれば見棄てられないと思っていた。
いつかは一緒に住める日が来ると思ってた。
俺は捕まり何処よりも厳しい"オズの監獄"に入るらしい。何も持ってなかったから気軽に行けた。
死刑執行まで変わらずそこに俺はいた。言われるがままやることはやった。
それでも救いはないまま執行日が来た。
降りしきる雨の中 ぬかるみを二人の執行員と共にはりつけ場へ歩く。結構早く執行日が来たせいか服はまだ捕まった時の物だった。
執行と言ってもトドメなんてささず頑丈な紐で十字架にはりつけにしたら終わりなのだ。
簡単な作業は直ぐに終わり執行員は建物に去っていった。

何時間経ったか何日過ぎたか判らない。灰色の空と激しく落ちてくる雨粒で風景は全く変わらなかった。
空を見上げるのも泥を眺めるのも飽きてしまい目をただじっと瞑る頃。
「――っ」
声が聞こえた。
執行員ではない。女でもケイサツでも ましてや親でもない。
女の子の声だった。
見ると兵士と女の子が仲良くそこにいた。どんなに視界が悪くても見逃せない程の希望を称えた瞳。色んな女と出会い 別れたが誰とも違う瞳の色だった。
彼女は俺に「カカシさん」と言ってきた。たった独りでいつも人には欲されていた俺も今の格好ではそれが妥当だろう。
その名前気に入った。
有りがたく頂戴するよ。
結局昔の俺は救いなんてなく諦めに変えた絶望のまま死んでいった。ただ呼ぶためだけの番号だったそれが愛する者達から呼んでもらえる名前に変わり俺は彼女達に着いていく。

天使ちゃんに導かれどうやら今度は辛くても天国に行けるらしい。


end

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