首切りてるてる

 あなたは、工事現場の近くを通った時「鈴の音」を聞いたことがあるだろうか。
 もし聞いたのならば、その時は晴れていなかっただろうか。
 そんな経験があるのならば、どうか雨の日はその工事現場の近くを通らないようにしてほしい。

 命が惜しいのなら、だけど。


…………
……………………


 それはとある町の、とある少年の話だ。

 彼は普通の男の子。
 友達と遊ぶのが好きで、名前から取って「てる君」と呼ばれて親しまれていた。

 その日もてる君は、友達と遊んだ帰りだった。
 ただ帰りの道すがら、雨が降ってきた。

 出かける時は晴れていたものだから、てる君は傘なんて持っていなかった。

 走って帰れば大丈夫。そんな思いとは裏腹に、雨脚は強くなるばかり。
 あまりの雨にてる君は、雨宿りをすることにした。

 と言ってもその道は田んぼの広がる閑散としたところ。
 民家はもちろん、コンビニも屋根のあるバス停もなかった。

 そんな中てる君は、雨宿りできそうな「屋根」を見つけた。

 田んぼの反対、ずっと続く高い塀。
 その切れ目、入り口から見える、入ってすぐの資材置き場。

 積み上げられた鉄骨が張り出していて、子供一人が雨を凌ぐには充分の屋根が出来上がっていた。

 ちょっとの好奇心と雨に濡れて焦る気持ち。

 てる君は「立入禁止」の看板を無視して、工事現場の中へと入ってしまった。

 それから数分も経たない頃。
 まだ雨がやむ様子もなく、前の道を誰かが通りすらしないくらい。
 不意にがら、という小さな物音がたった。

 それはてる君のすぐ側だったけど、砂利に跳ねる雨粒の音に打ち消され、てる君が気付くことはなかった。

 ゴッ、と更に大きな軋みが鳴った時、今度はてる君もその音に気が付いた。

 見渡すまでもない。
 てる君は、真っ先に音のした場所へと目を向けた。

 つまり「頭上」へと。

 人の通らない閑散とした道。
 やっぱりその直後に轟いた轟音を聞いた者はいなかった。


…………
……………………


 朝。
 雨は降り止み、小鳥が鳴く清々しい空の下、工事現場には作業員が集まっていた。

 もちろん仕事をするために。

 そして出入り口を塞ぐ鉄骨の山を見つけた瞬間、あ然とするしかない人々。

 ある者は今日の仕事がおす嘆きを。
 ある者は崩れるような積み方をした者への不満を。

 様々な面持ちで眺めていても、やることはひとつ。

 撤去作業を始めた頃には皆、それでもこれ以上悪い自体は想定していなかった。

 鉄骨の一番下に、子供が下敷きになっていたなんて。

 見つかったてる君の遺体には、首が付いていなかったそうです。

 その日から、晴れた日にその工事現場の近くを通ると、鈴の音が聞こえるそう。
 まるで晴れを喜ぶ子供みたいな弾む音で。

 そして、雨の日には「何か」が飛んで来て、近くを通った人の首をはねてしまうんだとか。
 雨を降らせてしまった罰のように。

 この工事現場自体はとっくに閉鎖されて、今はどこにあったのかすらも定かではない。
 それでも今もまだ、目撃情報は消えません。

 いたる地域で。

 もしもある日、ついこの間までなかった筈の工事現場が有ったら。
 回り道をした方が良いかもしれません。

 そこでてる君が待っているのかもしれませんから。

end 

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