おしまい

───あー、到頭この人間世界もおしまいかー。

日がな平日、会議はもう終わったとばかりに俺は下座の席で議長の話を半ば聞き流しながら寛いでいた。

質の良いチェア、その眼前に在るのはデスクに囲まれたスクリーン。
スクリーンに投影されているのは自分達で創った世界。その名も地球。
その地球を眺めるのは神々。つまり俺達。

「この世界の破棄に反対意見の有る者は?」

店で流れるBGMのように右から左へ流れていく言葉。
恙無く進行する地球存亡会議の最後に議長が決を採れば、満場一致であっさりと地球の破棄は決まった。

───ま、そんなもんか。

地球に対して特な思い入れが無い俺は、無感情のまま賛成に同意した。

是非を問われても良く言えば中立、早い話が上様の言う通り。
明け透けな本音が許されるならばどうでもいいと答えている。そんな選択肢。

つまり態々反対意見なんて言い出す筈がない。

まぁ結局はそれがここにいる大半の意見だからこそ、この結果になったとも言えるのだけれど。

───地球、地球ってなんで破棄になったんだっけ?

既決後の今更になって手元の資料に目を落とす。

人間の技術の発展、
人口の爆発的増加、
意見の対立や略奪、
争いの種は幾らでもある。

そしてそれらの激化。

このまま放って置いても人間同士の喧嘩で勝手に地球を壊して滅ぶかもしれない。が、逆にある程度で鎮静化するかもしれない。

寧ろ後者になるだろうと言うのが俺達のおおよその見解だ。

争って、落ち着いて、また争う。
人間は永らくそれを繰り返しているのだから。

一度の争いで壊滅的なダメージを被りはしない、のはまず間違いない。
何なら壊滅的なダメージを被っても人間は絶滅しないでいつかまた現状まで持ち直すだろう。

しかし、

───回復するなら良いじゃないか。

…と言う認識は今や少数派だ。

何故俺達が態々"破棄"する結論に到ったのかといえば。

争った決着は落ち着くか滅ぶか。
滅ぶまでその繰り返し。
決して地球から争いは無くならない、と神々は判断した。

答えは見ずとも既に見えたも同然。
それが"望むカタチ"ではない時点で要らない、という事だ。

俺達は"平和"を求めている。
なのに争いと膠着で鼬ごっこの地球では期待ができない。

だからおしまい。

あっけない、おしまい。

───どうせ新しい地球を創っても似たような過程を辿るだろうに。

資料を眺める目にはもう文字列も添付画像も入ってこない。

…地球は、俺達の世界と俺達を模して創った謂わば箱庭だ。

俺達が理想郷を築くにはどうしたら良いかをシミュレーションする為の模造品。

───平和な世界を目指していたのに何処で間違えたんだろう。

どんどん俺達みたいになって。

会議が解散になり、一人の神は自嘲気味に笑った。
またある神は地球破棄施行の手始めに某国から核弾頭発射の操作をし、またある神は既に思考を新世界創造に巡らせていた。



「俺、先上がるわ」
「おつかれ」
「おつかれさん」

同僚と軽い挨拶を交わし俺は足早に社外へ出る。
狭い会議室と重厚な空気から解放されて空気がうまい、とかはない。まぁ、いつも通り。

件の地球に限りなく似ていて、どちらかといえば近未来をイメージさせるような俺達の世界。

きっと地球をあのまま残していれば俺達の世界みたいな発展を遂げたのだろう。

別に俺はこの世界が嫌いな訳じゃないから、きっと地球の住み心地も悪くなかったと思う。
だから個人的に言うなら態々破棄しないでも放置で良いじゃないか、とかは思ってみたりしないでもない。

予算とか、置き場とか、神様の事情てのでそうそう創ったモノを残しっぱなしには出来ないのだけど。

「…」

そう思うと僅かに眉間に皺が寄った。

未来を知りたい分けじゃない。
過去を知りたい分けでもない。
平和な世界を創るヒントが欲しかった。

だから地球を創った。
だから地球を壊した。

俺達より遅足だったが着実に進化していた。
しかし、案の定とでもいうべきか。同じループに嵌まってしまった。

そんな地球を神は棄てた。

───人が神に。
───ならば神は何に?

人を神が創ったように。
人が神と同じ道を辿ったように。
そして人が神に滅ぼされるように。

ならば神も誰かが創り、誰かと同じ道を辿っているのではないか。

ならばきっと俺達も。

「さよなら」

見上げた青空に呟けば、煙を吐き出し通過する世界のおしまいが見えた。



end

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