辰世幻想譚
「なんか俺、一目惚れしたかも」
「またか」
ガヤガヤと賑わう昼下がりの教室。
紙パックを吸いながら後ろの席の友人に目を輝かせて放った言葉は、平素のトーンで撃ち落とされた。
「詳しく話してみ」
「…っおう!」
お前は先生か!と問いたくなるくらい優しいトーンで、数ヶ月に一度は聞いたであろう冒頭から入る話を促してくる友人。
今回は本気だから!…とも毎回言ってる気がするので、聞いてくれる気がある内に順を追って話そうではないか。
「新年さ、俺初詣行ったじゃん?」
「あ、行ったんだ。“寒くてメンドー!今年こそ無理ぃぃぃ!”て言ってたのに」
「なにそれ俺のマネ?」
「迫真しょ?」
「…いや似てないし。俺んなキモくないし」
「でも今の声に反応した周り見てみ。お前見てるから」
友人の声真似は声量まで模倣していたおかげで、クラスメイト諸君に何事かと思わせてしまったようだ。
が、俺を見てるのは似ているからじゃない!
お前がその真顔でんな身悶えた声出すとか思ってないからだ!
そもそもお前、周りにクールとか勘違いされてんじゃん!二人でやった変なことイコール全部俺がやったって思われてるんだが!?
………え、本当。似てなかったよな…?
「まぁいいから続きは?」
「…初詣行ったじゃん?んでさ、」
まぁ良いかはさておき、周りからの視線と共に昼休みの残り時間も消えて行くわけで、となれば優先すべきは初詣での話だ。
「迷子になったわけよ」
「地元の神社って話じゃなかった?遠出とか面倒って言ってたじゃん」
「そう。なのに迷子になったんだよ。あれはびっくりしたわ」
実際何度か行ったことのある小さい神社だ。
この辺だとちょっと足を伸ばせば大きいところがあるから、地元の人でも、特に初詣ともなればそっちへ行くから空いてるいい穴場だと思う。
住宅街を縫った先ではあるが、入り組んだ立地でもないのに迷子になったのは結構マジで焦った。
「疲れてんなら休め?」
「うん」
本題に入る前に友人に心配させてしまった。
疲れてないから休まず話そう。
「んでさ、また別の神社見つけたんだよ。それなりに大きいけどすいてたからまぁ今年はそこでいっかって」
「この辺神社多いな」
「それな」
願いは叶えて欲しいけど誰にとかこだわらない、初詣で限定有神論者の俺である。
無事に家に帰れますように。が今年の願いにならなければそれで良かった。
「桜?みたいな花が咲いてて全体的に輝いて見えるめっちゃ幻想的な場所でさ。俺ですら写メろうと思うくらいキレイな場所だったのに、スマホの電池切れてた」
「アホじゃん」
返す言葉もない。
「取り敢えずお詣りしたわけさ」
「家に帰れますようにって?」
「いやテストの点が母ちゃんに怒られない程度になりますようにって」
「勉強しろ」
せめて褒められるくらい点が取れるように願え。と呆れられた。
確かに!
「でも勉強運アップのお守り買ったからこの後のテストはいけると思う」
「ちなみに勉強は?」
「…」
鞄にぶら下げた青い龍の根付。
彼に全てを託す!
テスト前ギリギリまで拝んでおこう。
「で?一目惚れの話はどこいったの?」
「あー!それそれな」
忘れてたのかよ。と友人は言わなかった。
ただ言外に伝わってはきた。
「お守り探してる時に声かけてくれた人がいたんだよ」
「つまり美人な巫女さんに声をかけられて惚れたと?」
「要約すな。違うし」
「あ、違うんだ」
友人は自分の憶測に自信があったみたいで、今までの会話の中で一番驚かれた。
「巫女さんじゃ無かった。着物だったけど、紅白のあれ着てなかったし、髪も長いのに下の方で結んでなかったし」
「あーじゃあ違うな」
「薄い青っぽい色した髪の美人だった。そうそう、このお守りの龍が持ってるガラス玉、こんな色」
「凄い髪色だな。つかオーロラじゃん」
「ホントにこんなだったんだよ。その美人も神社も」
「今俺、写真撮って来なかったお前への信用性低いって知ってた?」
「否定はしないが信用してもらうしかない」
「わかった拒否する」
友人からの信用は得られなかった。
でも美人に優しくされたから、ほいほい惚れて、すすめられたお守りを選んだ。とは納得された。
否定できん。
「つかよく帰ってこれたな。道も聞いてきたん?」
「俺が紙の地図読めないの知ってんだろ」
「いや初耳。読めないの?」
「gaagleマップなら一緒に動いてくれるから見れんだけどな」
だから帰りはマップ起動させて帰ってきた。と言ったら友人から怪訝な顔された。
いや本当に!スマホのマップは見れるから!
お前は白昼夢を見たんだよ。ゆっくり休め。と、いつになく優しい友人に肩を叩かれ、その後ギリギリまで祈ろうとした俺にそっとテスト範囲の要点をまとめたノートを見せてくれた友人マジ神。
なんかいつもより勘が冴えてた気もするし!
これは怒られない点数が取れるぞ!と意気揚々と帰って自分の部屋に入った俺が、目の前に現れた青髪の美人との再会に言葉をなくすのはあと少し先の話。
俺のテストの点が神様でも言葉をなくす程と知るとは明日の話。
でも俺専属の美人な家庭教師のスパルタ勉強により最終的には褒められるくらい点が取れると知るのは、惚れた相手が雄だと知っても後戻り出来ないくらい惚れ込んだ後の話。
end
[ 129/129 ][*prev] [next#]
戻る⇒top