冷たいアイツが溶けたなら

「兄さんは夏と冬どっちが好き?」
「え?」

 かわいい弟の唐突な質問に俺は咄嗟に答えられなかった。

「ふ、冬かな…?」

 熟考と言うには短いが即答とは言えたものではない微妙な間の後、躊躇いがちに弟の質問に答えれば、明らかに不満気な視線で返される。

「ナツ兄が聞いたら夏って答えんでしょ?ハル兄さんは」
「…う゛」

 四人兄弟の末弟、フユは至極冷徹に…基、冷静に俺の思考を見抜いてきた。

「どーせ兄さんが好きな季節は春だもんね。次点で秋。夏と冬はどーでもいんだ」
「どうでもは良くないけどさ…」

 俺の毎度嘘を付けない性格と、そんな兄の嗜好を熟知していて事実確認にしかならない質問を投げかけては不満気になるフユ。

 うん、不毛。

 でもフユの考察は遠からずだから強く否定ができないのかまた…。

「てか四季と俺等をかけて好き嫌い確認するのはやめろよな」

 四人兄弟にするという強い意志を感じる俺等の名前。
 ハル、ナツ、アキ、フユ。

 誕生日はばらばら季節無視だが、性格は季節の特徴に似ている事もあり、よく四季と結び付けて俺等は見られがちだった。
 それは兄弟間でも度々あって。

 熱血なナツと冷たいと言われがちなフユは性格上合わないらしく、よくライバル視をしている。
 逆にそんな極端な性格差はない俺とアキは仲が良い。
 趣味とかテンポが結構合うのは確かだ。

 でも、だからって二人がどうでもいいとかじゃないから反論はしたい。

 …季節で問われると、暑いのも寒いのもしんどい身としては二の句が継げないのだけど。

「確かに季節じゃ春や秋が好きだけどさ、一番好きなのはフユだぞ?」
「…なにそれ。意味わかんない」

 結局俺は比喩を諦めて率直な感想を述べることにした。
 フユはつっけんどんな反応しかしてこないが、耳がほんのり赤くなってる。

 うんうん。やっぱり人間、素直が一番。

「アキはさ自分から動くことが少ないけど好奇心はあるんだよね。だからナツくらい熱苦しくて引っ張ってくれるやつといるのが丁度良いらしいんだ」

 そう言いながらフユの手を引いてこっちへ引き寄せる。
 同じ部屋にいるとは思えないくらい冷たいその手は、別にこの部屋が暑いとかでは無いけど心地良かった。

「…じゃあハルは?」
「俺はこうして冷たーいこと言ってるひねくれ屋くらいが丁度良い」

 雪は積もるほど溶かし甲斐があるってものだ。
 その下に確かに芽吹いているものがあるってことを、俺は知っている。

「あ、あと俺としてはフユには呼び捨てにされてる時の方が好きかな。実際あんま歳離れてないし」
「そーかよ、ハル先輩」
「う…でもその呼び方斬新でいいね」
「なんでもありかよ」
「フユのことならね」

 引き寄せられるまま腕の中に収まったフユが大人しく丸くなる。

 うんうん、フユは兄弟の中で一番俺のことが好きだもんな。
 耳を隠してるみたいだけど、首の後ろも真っ赤だぞー。 

「…ハルって変だな」
「そう?」

 手と、それだけじゃなくて俺と同じ温度になった身体を抱え、俺は笑みを深めたのだった。


end

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