VS!
「なぁなぁ、お前、サンタになに頼む?」
「は?」
放課後遊びに行った奴の部屋。
真顔で対戦ゲームに興じる高校生に似合わない子供じみた話題を持ちかけるのは、部屋の主その人だった。
「え、なにお前、まだサンタ信じてんの?」
俺はちょっと引き気味に返す。
勿論ガチで引いているわけではない。
あくまでも大袈裟な素振りなだけである。
「まっさかー。俺ぁ小一でサンタに会おうと徹夜して夢を打ち砕かれたタイプの人間よ」
「…」
それはそれで夢から覚めるの早かったな、とか思う。
本人が何故か自慢気だから、それはそれで構わないけど。
うちは親が現実主義者だから、初っぱなから親に希望を出して直にプレゼントを貰うタイプの家だった。
だから自称サンタが来た試しはない。
チッ、この年でサンタ信じてるとか、ちょっと可愛いとか思ったのに。
でも徹夜はかなりツラい小さい頃にその行動力は流石としか言いようがない。
「で?プレゼントは貰うんしょ?なに頼むんだよ」
「まぁ」
現実主義者な親ではあるが、無茶な事を言わなければ大体許容してくれる親でもある。
高校生の内は、プレゼントを期待しても良さそうだ。
しかし何故こうも聞いてくるかな。
ゲームでなんか良いやつでもあったんだろうか。
それで同じカセットなりハードを親に頼もう的な。
「うーん、特に決まって無いけど」
「そこは"俺"とかたのもーぜー」
なんかほざき出した。
「靴下に入んねえじゃん」
「でも靴下は履けるぜ?」
ならまぁ、とはならない。
なに言ってんの?とはなる。
そもそもプレゼントを靴下に入れて貰った試しもねぇよ。
「お前とか、サンタに頼んで貰うもんじゃなくね?」
「親に頼むんだろ?」
「尚更頼みづらいわ」
頭の痛くなる会話だ。
「てか既に俺のもんだろーが。貰うとか意味わかんね」
「きゃっ、照れるー」
「キモ」
「ヒド」
黄色い声にご丁寧に身振りまでつけていやがったから、ヒドイついでにゲームの方も負かしてやった。
お前にはその「ぎゃぁぁぁぁっ!」という断末魔の方が似合ってる。
「まぁ冗談はさておいて」
天を仰いで断末魔を上げていた阿呆がスン、と素に戻り再戦ボタンを押す。
俺も気は抜いていないから、そんな不意打ちでは出し抜かれない。
「クリスマスイブから泊まりがけでうちに来ない?て話」
「泊まり?」
プレゼントの話から唐突だな。
こうして家に遊びに来ることはあっても、宿泊まではしたことのない健全なお付き合いだ。
健全なお付き合い。
あれ、じゃあ泊まるなら?
「…」
「むっつり」
返す言葉もない。
ほら見ろやられたじゃないか。
「俺さぁ、クリスマスプレゼントはお前を所望したぜ?」
「ぶっ、は?」
吹いた。
ほらまた負けた。
なに?そーゆー作戦?
「えっとまぁ、なんつーか…その日は親がいないって事なんだけど…」
自分で言ってて恥ずかしくなったのか知らないけど、相方の歯切れが悪くなる。
本気で親に頼んだのか、たまたま両親に外出の予定があったのかは知らないが、取り敢えず、つまりその日は初めてのお泊まり、初めての夜ってわけだ。
まさかなんの下心もなく、家に一人は寂しい。とか言う理由で俺を招待はしてないだろ。
断然断る理由はない。
「ん、いいよ。全然行ける。全っ然、行ける」
大事なことだからはっきりと二回答える。
我が両親もたまには夫婦水入らずしても良いだろう。
「…」
「…」
二人ともなんかぎこちない。
画面の向こうの二人すらなんかぎくしゃくして空振りすらしていない。
純粋な友達関係だったら、寧ろテンションが上がるところだろうに。
「えっと、何か持ってく?」
お情け程度にボタンを押す。
めっちゃしっかり反撃してきたからカウンター入れてやった。
よし、もはや反射で対応できる。
「プレゼントだけ。よろしく」
元から決めていたような台詞を吐いてくるのが何かムカつくからボコしてやった。
案外緊張していたみたいで、全然反撃できないでやんの。
でも何がそんなに緊張するんだ?
「何が欲しいの?」
「お前」
「なんだ、そんなのもう持ってんじゃん」
しれっと答えた癖にミスが増えてたから、多分緊張はバレてる。
けどうん、反射で答えられる。
「じゃ、飯と飲み物と…なんかまぁ、色々持ってくわ。朝寝転がってても食べれるやつ」
「あ、うん。お願い」
もうさ、この時点でこのぎこちなさどうなのさ。
俺ら高校生よ?
何回お互いで抜いてると思ってんの。
…。
イブまでもつかな?
いや、もたせるよね、折角だし。
…。
ちら、と隣を見たら同じような反応をしてた。
なんてゆーかまぁ、画面の向こうは引き分けだけどまぁ。
「決着は明日でいっか…」
「うん…」
「じゃ、色々持ってくから」
「ん」
決着とかつかなそうだけど。
end
[ 108/129 ][*prev] [next#]
戻る⇒top