お返しmelt

 困ったことが起きた。

「いやぁー、マジ参ったよー(笑)」
「ハハ…そうか…そりゃ、困るな」

 適当に返答をするものの余裕のない俺は、目の前でケラケラ笑うお前の非ではなく参っていると言いたい。

「んー?どうかした?」
「い、いや?別に…」

 当然実際には言えないんだけど。

 突然だが、本日4月14日はホワイトデーである。
 そう、ホワイトデーである。

 大事なことなので二回言った。

「やっぱおかしいべ。なに?変なもんでも食った?」
「お前じゃないんだからねーわ」
「なにをーっ!」

 俺のへっぽこ演技のせいで全く平静を装えていないが、こいつはその上をいく単細胞なので話を逸らすのは実に楽だ。

 それはすごく有り難い。

 しかし、何を隠そう今現在俺が悩まされているのも、こいつの何気無い行動が原因だった。

 あれは一ヶ月前。
 バレンタインデーの日の事だ。

 約半年前、引っ越しと共にこの学園に転校してきた俺は、当初ちょっと変わった傾向のあるこの学園での交遊関係にだいぶ警戒していた。
 まぁ、早い話が男同士の恋愛が結構盛んだったのだ。
 しかしそんな俺に気さくに話しかけてくれたのがこいつ。
 友達として親しくなり、気付けば俺はコロッとこの学園に染まっていた。

 つまり、俺はこいつに惚れてしまった。
 そして片想いしているこいつに、チョコを渡した。
 友チョコも飛び交っていたから、友人同士で渡すことに不審がられることも無かったし。

 そこまではいい。
 こいつはめっちゃ喜んでそれを受け取ってくれたから。

 問題はその放課後の事だ。

 帰り道、ゲームかなんかのことを駄弁っている合間に、こいつは一口チョコを食っていた。
 そして俺にもくれた。

 こっちからのチョコを渡し終えて安心しきった俺は、いつものノリでそのチョコを貰い食っていたのだが…。

 ふと思った。
 あれはバレンタインチョコと考えていいものだろうか?と。

 うちに帰りバレンタインだったと思い出し、ならばホワイトデーにもお返しと銘打って贈り物ができるじゃん!と今日まで浮かれていたのはいいのだが。

 今考えてみれば、あれはマジでいつものお裾分けだったんじゃないか?

 つまり義理チョコですら無かったんじゃないか?
 となるとこいつは俺にチョコを渡したことすら忘れてんじゃないか?

 無駄にモテるこいつは周りに「付き合うことはない!」と公言して告白をシャットアウトしている。
 更には「面倒な関係は却下!」とも言っている。

 まぁこいつの性格上、恋より遊びが楽しいんだね。と皆すんなり受け入れてるから、それでハブられるなんてこともないんだけど。

 お返しと言う免罪符がないと、変にプレゼント過多で「面倒」がられるんじゃないか?
 そもそもあのチョコのお返しがコレって、張り切りすぎかもしれない。

 折角友達としての地位を確立してんのにウザがられるのは困る。

 でも、こいつが気にしていた店のケーキなんだよな。
 だからもったいないってのもあって出来れば渡したい。

「なー、やっぱ変だよ。体調悪い?」
「いや、」

 こう、さらっと渡しちゃえばそんな気にする必要もない内容なのはわかってんだけど、つい考え出したら悪い方へばっか考えが向かってしまうのが俺の悪い癖だ。

 あまりに余分なことばっか考えてしまうせいで、いつもより心配されている気がするな。

「ふーん、そう?てかなぁなぁ、今日誰かの誕生日だったりするん?」
「え?」

 どうしたものか。と俺が思い悩みそうになった矢先、こいつは藪から棒な話題を切り出してきた。

「それ、ケーキ屋の箱っしょ?俺、めっちゃ気になってたから分かるし!」
「あ、うん」

 何事かと思ったら、俺の手抜かりだった。
 箱なんてガサ張るもの、机の横にかけていたから見付かってしまったようだ。

「お前甘いもん苦手じゃん。知り合いにあげんだったら不思議じゃないなーって」

 妙な所で鋭いこいつに俺は肝を冷やす。
 人にあげるつもりで持ち歩いてるのは本当だ。
 でもここで「そう」と答えたら、こいつにあげるタイミングを逃すんじゃ。

「もしかして!俺だったり?」
「…へ?」

 俺が意を決する前に、都合のいい幻聴が聞こえた気が来た。
 否、幻聴ではないか。

「いやさ、バレンタインデーの義理チョコのお返しには随分力入ってんなーって思ったんだけどさ、今日俺の誕生日じゃん?てことはソレ貰えんの俺でもおかしくなくね?って思って!」

 饒舌に語るこいつ。

 あ、あのチョコはバレンタイン扱いで良かったんだ。
 て、それどころじゃなくて!

「そっ、そうそう!誕生日!だからちょっと奮発したんだ!」

 すかさず便乗する俺。
 こいつは思ったことを全部口に出してくれるから凄く助かる。

 思えば修学旅行で班を作る時や一緒に下校することになった切っ掛けも、こいつの言葉が切っ掛けだった。

 てか誕生日だったの、知らなかった。
 来年のためにもしっかり覚えておかなくちゃな。


…………
……………………


 目の前でワタワタしながら俺にケーキを差し出してくるオトモダチ。

 俺は元気よく「サンキュー!」と返しながらそれを受け取った。

「来週、楽しみにしとけよな!」
「え、来週?」
「そ!今度はお前の誕生日だからな!」

 本気で気が付かなかったらしい自分の誕生日に無頓着な友人に、俺は内心やれやれ、とため息を吐いた。

 全く困ったものだ。

 俺にはこんなに尽くそうとしてくれているのに、その見返りを求めていないのだから。
 まぁそこがまた健気で可愛らしいんだけど。

 でも健気と言ったら俺も負けていないぞ?

 こいつがケーキを渡しやすいようにこんな「嘘」まで吐いて誘導しているんだから。
 普段から気にしぃのこいつのために、俺がどれだけ声をかけやすい環境を整えているか。

 と言ってもこれは俺の言葉も原因の一端だし、それくらいは多めに見てやろう。

 まさか「面倒な関係は却下」と言ったのが、自分にも適応されるんじゃないかとビクつかれるとは思わなかった。
 こいつの面倒を見るだけで手一杯だから他の奴等なんか気にかけてらんないって意味で言っただけだったんだが。

 他の奴等には付き合うことはないから邪魔すんなって釘を刺して、折角二人での日々を過ごしているのに。
 もうちょっと気兼ねなく接してもらえないものだろうか。

 つか引っ越して来たこいつは知らないだろうが、お前が取っ付きやすいように俺はだいぶキャラ変えてんぞ?
 周りの奴等は俺のこの「茶番」が面白いからって付き合ってくれてるけど。

 ま、いいか。

「うん、うまい!」
「そっか、良かった…」

 もらったケーキを頬張りながら素直な感情を口にする。

 このケーキ屋が気になっていたのは事実だ。
 ただし、ガトーショコラも売りだったから、ここなら二人で食えるかな?と思っていたってのが正しい形なんだけど。

 こいつ。
 自分の分は買って来なかったな。

「ほい」
「ん?」

 フォークを握ったまま、左手でポケットから取り出したものを渡す。

「?」
「前に自分もなんかアクセしてみたいって言ってたじゃん?イヤーカフ。俺とお揃い」
「っ!」

 なんでもない風に渡して、フォークをくわえて空いた手で付けてやる。

 うん。俺の満足度が上がった。

「髪に隠れて先生にも見付からないから、これならいつでも着けてられんべ?」
「ううううう、うん!」

 はい、カワイー。
 日々必死に平常心の皮を被っているのに、まぁ見事にガッツリ剥げてますが?
 ま、気付かないふりするけど。

「あっ、折角だから今度デートしよーぜ。外なら髪上げてカフス見えるようにしても怒らんねーし」
「でっ!」

 冗談めかして切り出したつもりが思ったよりガチトーンになってしまった。
 でも耳を隠す髪を撫でていたせいか、俺のキャラがおかしくても気にする余裕はないらしい。

 ラッキー。

「来週とかどーよ」
「えあ、うん!」

 さくっと言質を貰ってこそっとガッツポーズをとる俺。

 今の俺等さ、このケーキより甘くね?
 まだ甘い?

 そろそろオトモダチやめる方向で話を進めても大丈夫かな。
 キャラもずっと偽ってんのも、ねぇ。

「次は何処にすっか」
「?」

 やっとこいつの耳にマーキングしたんだけど。
 まだ俺のだって主張、し足りないんたよね。


end

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