夢でまた逢いませう

毎年、七夕の夜は決まって見る夢がある。否、正確には行くのだが。

コッチとアッチを分けた天の川に橋が掛かって引き裂かれた二人が一時の会瀬を交わすのだ。

彦星が広げる両腕に織姫として俺は涙ながらに駆け寄りダイブ――――



する、分けがない。


何で俺が男に抱き着かにゃならんのだ!とは今更言う気は無い。

ただ動きづらい織姫の服を慣れたように避けて踏み込み 彦星の鳩尾に目掛けて下から拳を入れる。

その為に毎年毎年俺は夢でココに来るのだ。



お分かり頂けたと思うが俺は非常に不本意ながら織姫である。

この難なく拳を受け止めヘラヘラ笑う彦星に十数年前、着物の裾を踏まれ転んだ勢いで空から転落死させられ 今は人間として転生した元・織姫である。


しかし勘違いされては困る。

俺が殴り掛かったのは何も織姫の俺をドジ踏んで殺したコイツを恨んでいるからでも 眠った俺をコッチの世界に唯一連れ戻せる七夕に一々喚び寄せるとか あまつさえ外見は今のまま似合わない織姫の服を着せられている腹いせとかでもない。


俺は元からコイツが嫌いなのである。


年がら年中ヘラヘラして淑やかさに欠ける俺を何故か気に入り構い倒すコイツがウザったくて堪らない。

そのくせ喧嘩はヤケに強いわ ソレを台無しにする程ドジだわ…俺を苛立たせる要素しか持っていない。


「久し振りぃ織姫」
「何度も言わせんな。俺はもう織姫じゃねぇ」

それはもう嬉しそうに抱き着く彦星。
身長同じくらいに成ったのに力で敵わないとは何とも不本意。

「良いじゃん一年ぶりなんだからぁ。仕事頑張ったんだよぉ」
「知るかっ!」

今通う学園の会計を彷彿とさせる口調に無駄にイラッとさせられる。
奴を始め役員どもは時期外れの裏口入学転校生にベタ惚れし仕事を放棄しやがった。

ソレをどうにかしなくちゃいけない俺の仕事量だって正直コイツに引けを取らない筈だ。
何より最近寝ていないからコイツに叩き起こされ迷惑この上ない。

「あれ?織姫寝てない?」
「あ?」
「隈出来てる」

ツイ、と隈が有るのだろう所をなぞられビクリとする。
親衛隊も奴等も気付かないから抜かった。

「ねぇ帰ってきてよ。ジジ様からは了承取ったからぁ」
「はぁ?」
「俺も無理矢理にでも織姫のところ行くって言ったらジジ様泣きながら織姫隣に据えてやるからって」
「…おいおい」

それは自分の身を盾にした脅しではないのか。
つかあのジジィ俺を売りやがったな。

大賢者とか呼ばれる位だから俺を連れ戻すとか出来そうだけどさ、囲碁友のコイツを手放したくなかったんだろ。

「良いでしょぉ」
「…」

抱き着いたまま仔犬みたいな目で見てくる彦星。
止めてくれ。俺は昔からその目には弱いんだ。


……ったく。

自分から一年に一度しか会えなくしておいてよく言うよ。


ただでさえ起きたらまた騒がしいってのに。

帰りたくなくなるだろうが。


「……俺は今の生活捨てる気もねぇぞ」
「うん、織姫はそう言うと思ったぁ」
「それでも待てるっつぅなら…ま、次は隣に居てやってもいい」
「ううん。待てない」
「おいっ!!」

俺が妥協してやったと言うのにキッパリ否定しやがった。
どうなってんだコノ野郎。

「織姫、」
「あ"ぁ?」
「怖いよ」
「知るかバカ」

俺が彦星の腕を無理矢理引き剥がすと今度こそ二人の間隔が開く。

それと同時に体が光り帰るタイムリミットを知らせる。

もうこんな所来るか。

「織姫」
「…」
「人の願いはね、叶うんだよ」
「、は?」

消える瞬間 彦星が言った言葉に俺は聞き返したがアイツは答えずただ"また明日"と手を降った。

そこは来年の間違いだろ。










よく分からないまま自室ですらない生徒会の仮眠室で目を覚ました俺はまだ知らない。

最近は行くことすら儘ならないクラスに"織姫に逢いに来た"と言う時期外れの二人目の転入生が現れたことを。

学校に設置された笹の葉に飾られた俺名義の短冊に書かれた名前がソイツである事を。


end

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