親子ごっこ-独-

──子供ができたら脱サラして、自由が利く自営業に変えるんだ。
──で、開いた時間でいっぱい遊んで、お前との馴れ初めとか、若い時の俺がどんなだったとか。
──そういう話がしたいな。

──まぁ俺たちには無理だけどな。

 そう少し寂しそうに笑った恋人はもう居ない。

 強姦殺人。

 女だったらそう言われるんだと思う。

 被害者は男、加害者が女。の場合は何て言われるんだか。

 そう。
 俺の恋人は、ストーカー女に犯されて殺された。

 風の噂によれば、女は童貞だったアイツの初めてを奪い、念願の子供を身籠ったそうだ。

 俺は執念だけで、警察より早くそれを知った。

 俺達の間に血の繋がった子供は無理でも、落ち着いたら養子でもとってその子と一緒に暮らそうって話していたから、あいつを失った今、俺には貯金だけが残っていた。
 だから脱サラして、貯金を切り崩しながら犯人を探し回ったのだ。

 女を見付けてどうするのか。
 そんなことは考える余裕もない衝動的な行動だった。

 …何となく自分がどうするかは察していた気もするけど。

 まぁ全てが終わって俺がまだ自由の身だったら。
 折を見て自営業くらいは始めようか。







 結論、俺は女を見付けた。

 そして俺は女を殺し、復讐を成し遂げた。

 それはとても平常心で行われた。
 見つけてから殺すまでに時間が開いた分、心の準備ができたのかもしれない。

 女は臨月で、だから子供が産まれるまで待ったからだ。

 別に子供には罪はない、何で偽善ぶる気はない。
 元々俺は子供が嫌いだし。

 でも、アイツの子供だ。

 アイツが自営業しながら、遊んで、話して、育てたかった子供だ。

 腕の中で泣く子供を眺めながら、鬱陶しいと言う感想しか抱けない俺には、子育てなんて向いていないのだろう。

 それでも俺は、この子供の母親の血だまりの上で泣き続ける子供をあやした。
 俺が与えられる以上の愛情を以て愛した。

 隠蔽でも、同情でも無い。
 作り物の親心で。

 俺がアイツの代わりをしたところでアイツが子育てを実感できるわけではない。
 だからこれは俺の自己満足。

 脱サラして、自営業して、幸せな家庭で子供と暮らすのが夢だった。

 子供を初めて抱いた日、俺は俺を辞めた。


end

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