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Hello!!Baby!
ローの奥様が妊娠したってよ。
ローは今朝からずっとポーラータング号の至る所を歩き回っては、付き従っている船大工にあれこれと注文をつきつけてクソ…と悪態をつきつつ眉間に深い皺を寄せていた。
「…こんなにガタがきてるとは思わなかった…」
そう言って深いため息をひとつ。そして時間をかけながらようやく最後となった部屋を恐ろしく丁寧に点検している。
船大工はローのお言葉を書き連ねた大量の紙束にひゃーってなりながらも「早急に直していきますんで!」とぺこぺこ頭を下げながらそう言った。ちなみに私はローの隣で二人のやり取りを眺めながら苦笑いを浮かべていた。

「…あのさぁ…そこまで神経質にならなくても…よくない?ちょこっと床のゆがみなんかで段差があったり釘やら鉄の板の端が飛び出てるだけ…でしょ?」

大変そうにしていた船大工を気の毒に思ってそう言ってみる。するとローは「ふざけんじゃねぇ…」と顔を般若のように歪め大げさすぎる態度でそう言いながら、「もしお前が転んでガキに何かあったらどうするんだよ?」と。今度は瞬時に心配そうな表情へ変化させてまだまだぺったんこな私のお腹を恐々と撫でた。ロー。私まだ妊娠3カ月、だよ?そして…
「コラさんは何もない所で派手に転ぶような人だったんだ。お前だってそうなるかもしれねぇ」
「はぁ…」
とも言う。
コラさんというローの恩人のことは私もよく知っていた。それにかなりドジっ子であったという話も。私は何もないところでは転ばないくらいの運動神経くらい持ち合わせていて、ローもそれをよく知っているはずだった。けれど、どういうわけか今の私はコラさんレベルに危なっかしいと疑われているらしい。それならば彼を心の底から敬愛しているローに私が何と言おうと、潜水艦の大幅リフォーム&バリアフリー化をやめる事に納得なんてするわけないか…と、私はかわいそうな船大工の救済は諦めることにした。

で、次はどの不幸なクルーを救済すべきかを考えてみる。……やっぱりコックかしら??私は部屋の端々を再び睨むように見始めたローからこっそり離れて食堂へと向かい、そこにいたコックに声をかけてみた。私の声に振り返った彼は額に汗を浮かべながら棚という棚から食糧を引っ張り出し、その全ての原材料名を読み上げてはオーガニックなものそうじゃないもの、添加物の多いもの少ないもの、…そんな風にして全てをきっちり仕分けしている最中だった。ついでに普段はあまり気にしていなかった賞味期限のチェックも。

『…今後リムの食事内容は特に気をつけろ。期限の近ェものなんか食わすなよ?』

コックを鋭く睨みつけながらそう命令していたロー。それ故コックは大量の食料品(なにせつい最近島で補給作業を終えたばかりなのだ)の全てに目を通さないといけない状態になっていて、だから私は「適当でいいんじゃない?」とこっそり彼に伝えてみる。「…おい。できるわけねぇだろ。俺を殺す気かリム?」「あ、あはは」。けど彼は引きつった顔でそのように即答し、再び食料品の材料名に目を通し始めたから私はそっと肩をすくめた。そうだね。適当にやってたことがバレたら死ぬより酷い制裁が待っていそうだよね。うん、ゴメン。やっぱり彼も救済不可能だわ!



私の妊娠が発覚したのはつい昨日、だ。
普通にいつも通り目が覚めて、何てことはない平和な朝を迎えた日の出来事だった。
あれ?何だか身体がおかしいな…なんて本当に少しそう思っただけ。もしかしたらなー、まさかねー…なんて思いつつ、けれど思い当たる節もあったのでローに何気なくその事を伝えてみると、ローはそれを耳にした直後持っていた分厚い医学書を手から垂直に落としてそれは彼の足の甲を見事に直撃した。
それにグアァ!と顔を歪めて悶絶し、『え!?お前今何て言った!?ちょっと待てクッソ!!マジで痛ェ!!』…と、あわあわしながら足をさするローの気の動転ぶりに私はむしろそっちの方に「わー」と驚いていた。
ローは暫く足の痛みに色々と文句を言った後、少しの間沈黙して茫然とした。そしてその後何かのはずみでハッとなり、足をもつれさせながら私の事を慌てて医療室へと連れて行ってくれて、彼の震える手による診察が開始。そうしたら私自身でさえ未だに信じられないのだけれど、このお腹の中に何とベイビーがいることがわかったのだ。しかもその時心臓もピコピコ動いているのが見えて二人してあー!と驚いてしまった。
「は、早ェ…鼓動が早ェんだ…だがこういうものなんだ!!あ、あせ、焦るんじゃねえぞリム!」
「落ち着いてロー。焦ってないよ」
そんなやりとりをしながら、しばらくその映像を二人でじーっと眺めて、その後ゆっくりと押し寄せてきた感動に私は笑顔になりつつちょっとだけ泣いてしまった。
予想もしてなかったこの度の出来事だったけれど、隣にいるローが何とも言えないくにゃりとした顔をしてその小さな生き物を見つめている姿はとても愛おしくて、だから妊娠してよかったなぁと素直に思う事ができた。
ああ幸せだな、と。
お腹の上でごく自然に重なりあった二人の手に、涙は更に溢れ出て世界を温かく柔らかく潤ませた。

…が、この感動の対面のあとローは一気に豹変する。
彼はその後すぐさま「このままじゃダメだ」と言ってこの船のあら探しを執拗なくらいにし始め、多くのクルーに無理難題を言い渡し始めたのだから。


「段差に食事に…。あとは何を気をつけるべきなんだ?…チ…迂闊だったな。その手の専門書が一つもねぇ…。クソ…。次の島で手に入るといいが…」

ローはブツブツ言いながら同じ場所をグルグル回り続けていた。
そんな行き過ぎな行動にちょっとだけ呆れてしまうし、正直過保護すぎやしないかとそう思った。けれどこれは言ってみればローなりの愛の形=cなんだよねえ。だから私は被害者となったクルー等には申し訳ないけれど、彼の行動をありがたく思いそれを静かに見守るべき…なのかな。「…やっぱりあそこの階段は無くすか…」「…え!」。…うん、見守るしかない。
多少無理やりではあるけれどもそう決めた私は、未だにブツブツ言い続けているローから離れとりあえず今は何の変化も兆しもない身体である事だしブラシを手にしていつものように掃除を始める事にした。
けれどいつの間にか私を追いかけてきたローの手が伸びてきてガシ…持っていたブラシがあっという間に取り上げられてしまう。そして言われた。

「身を屈めるんじゃねえ…」
「そうなの?」
「………わからねェ」
「そっか」
「悪い…。勉強しておく」
「うん」

未知な領域ゆえの当てずっぽうなアドバイス。
それに気まずそうにしたローの顔に、私はクス…と笑いつつ彼に余計な心配はかけたくなくて素直に掃除は止めることにした。

自分の身体の変化に不安になるよりもローのほうをむしろ気にかけているだなんて不思議だ。でも仕方がない。ローってばクルーの前だとそこまでじゃないのに、私の前ではずっと子供みたいにオロオロしていて、しかもそれを隠す余裕すらない状態。
だから私は、くるりと背を向けて恥ずかしそうに首を掻いているローにこっそりと大きな苦笑いを送った。

「今からそんなんで大丈夫??」
「うるせぇな」
「パパ〜大丈夫〜??」
「う、うるせぇよ…」
「あはは」

ローは赤くなったであろう顔を帽子で隠しながら早歩きでここから去って行ってしまった。私は苦笑したままその背中を見送って、お腹を撫でつつそっとこの中にいる命に語りかけた。


ハローベイビー。
未来に会うその日まで、どうかどうか、元気でいてね。
この世に生まれるその時を楽しみに、今は私の中で安心して生きてください。
そしていつか教えてあげるよ。
パパはあなたをこんなに早い段階からものすごーく大切にしていたことを、ね。



「おーいリム〜!おれ達の事助けてくれよぉ〜」
「あ、ベポ!なになに〜?一体何て命令されたの??」
「聞いてよ!!船を悪天候の中走らせるな、絶対に揺らすなって言われたんだよー??!無理でしょ!!ここグランドラインなのに!!」
「あー、そりゃ難題だねアハハ。ペンギンたちは何て?」
「今日以降酒を一滴も飲むなって言われたぞ…。酷くねぇか?!?リムが飲めなくなるからって何で俺達までッッ!」
「え!?そうなの!!ローってば鬼!なら自分も飲まないつもりなのかなー?」
「いや………あの人は飲むだろ」
「あはは。ならローも飲まないでって言ってみようかな」
「いや、でも……それでもあの人は飲むだろ」
「私もそう思う!」
「やっぱりそうかよ!!」


そう。こんなにも大切にしている!!
仲間たちに様々な苦行を与えてちょっとだけ彼らを蔑ろにしている、というオプション付きだけれどね。



おしまい






のえさんへあとがき



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