いいえ、そいつは敵です
「疲れたー…」
梨子がそう言いながら身体を伸ばす。
私も帰る準備をしようと鞄に教科書を直していると、ふと梨子が顔を上げた。
「ね!咲穂」
「ん?」
「今日朝練あったんだけど、多分シューズ置き忘れてると思うの、体育館寄ってもいい?」
「いいよー」
朝練とか忙しい…女バレが強いのも納得だわ。
そう思いながら私は彼女と教室を出、体育館に向かった。
体育館はまだ電気が付いていた。テスト期間は部活禁止のはずなのに。…や、朝練やってる梨子が隣にいる時点であまりそれは意味の無い禁止なのかと思うんだけども。
体育館の横にある扉を開け、梨子が靴を脱いで入っていく。
どうやら電気が付いていたのは隣のコート、男子バスケ部のようだ。金髪の人が練習してる。すっごい汗かいてるってことは、ずっとやってたのだろうか。
そう思ってぼーっとそちらを見ていると、ふと私の後ろから声が飛んだ。
「宮地さーーーん!練習お疲れ様でーす!」
何とも呑気な声だと思って振り返ると、背の高い緑色の髪+眼鏡の男子生徒と、手を振ってる黒髪の男子生徒がいた。
一瞬私を見て誰?って顔をしたが気にせずそのまま体育館へ。どうやらあの金髪の人は宮地さん、というらしい。
「何だよお前ら」
「俺ら勉強してて、体育館まだ電気ついてたんで宮地さんと帰れねぇかなーなんて。なぁ真ちゃん」
「高尾うるさい黙れ」
「そんなこと言ってお前らバスケしたいだけだろ」
宮地先輩が肩を落とすのが見えた。
そしてその時、
「しゃーねぇな、高尾、お前ちょっと練習に付き合え。緑間はそっち半面貸してやる」
……みどりま?
「あいつかっ…!」
思わず声を上げる。
ん?と黒髪(確か高尾)が振り返った。そして私はあっと思わず逃げる。
声出してどうするよ私。
ていうかそれ以上に、ようやく分かったのだ。
あいつが、緑間真太郎……!
「あれ?咲穂…あーいたいた!ごめん遅くなってー」
「ふふ、ふふふ……」
「?!」
今に見てろ…!
絶対勝ってやる…!
そんなメラメラと燃え上がる自分を、梨子はうわぁって目で見ていた。