激しい銃撃戦で削られた壁はボコボコに穴が開いていた。その破片が床を埋め尽くし、歩くたびにジャリジャリと音がする。

「お疲れサン」

002がそう労いながら近づいてきた。その背後には少女がひとり……だけ。

「三人じゃなかったのか」

聞いた話では地下にいたのは三人のはずだ。002も入れれば四人になる。それが半分とはどういうことか。

002は僅かに首を振った。いまここで説明する気にはなれなかった。

「あとで話す」
「…そうか」

004もそれ以上追及したりはしなかった。002の後ろにぽつりと立つ少女を静かに見やる。

「…あ…」

マオはというと、床に転がる幾つかの死体に恐怖し、自分の身体を抱き締めて震えていた。

004は、血に濡れた左手と火薬臭い鉄製の右手を、特に隠そうともしなかった。
見たままがすべてだ。どう判断するかは相手の勝手だと、自嘲と諦めが入り混じった考え方をする彼は、敵を殺めたことを隠したり、ましてやそれに対する言い訳など決してしなかった。

「009達は爆薬を仕掛け終わって撤退を開始しているそうだ。俺達も脱出するぞ。ドルフィン号が外で待ってる」
「了解。…走れるか?」

002がマオを気遣ってそう問うた。それにしても言葉が通じないのは不便だ。戻ったらさっさと博士に直してもらおう、と思ったところで、マオが兵士の死体の一つを指差しているのに気が付いた。

「あの死体…」
「…ん?あんまり見るなよ」
「光ってる」

恐ろしすぎて視線を逸らせずにいたら、気付いたのだった。

倒れた兵士の胸が……正しくは服の下にある何らかの光が、ピコピコと点滅していた。

「んんー?」

002はまだ温かいその体をごろりと転がして、上着をはだけさせる。

「きゃっ」

背後でマオが小さな悲鳴をあげた。男の胸に丸い機械が埋め込まれていた。
直径十センチほどのそれはちょうど心臓の上にある。その機械についた赤いランプが点滅しているのだった。

「なんだこれ?」

…心なしか、見ている間に点滅する間隔が狭まっている気がする。

「なぁ004、これ何に見える?」
「小型の時限爆弾に見えるな。点滅してるあたり」
「だよなぁ。アレだろ、心臓が止まったら秒読み開始するタイプの」

「……………」
「……………」

ピピピピピピピ!

004が棒立ちになっていたマオを抱え上げる。さらにその004を002が抱えた。

「飛ぶぞぉ!」

足のエンジンを稼働させ、一気にその場から離れる。追うように、背後で爆発が起きた。熱風が三人を襲う。

「きゃ あ あ!」

マオの悲鳴は爆発音にかき消され、もはや誰にも届かなかった。基地が揺らぐ。

「このまま外まで行くぜ!」

入り組んだ狭い通路を高速で飛んだ。目の前に迫った曲がり角を、体をひねって器用にクリアする。この手の飛行ならお手の物だ。

ものの数分で、彼らは基地から脱出することに成功した。障害物のない清々しい空に舞い上がり、002は笑みをこぼす。

「どうよ、俺様の華麗なる飛行!」

はぁ、とため息をついたのは004だった。

「…もう少し安全運転なら言うことが無かったな」
「あ?」
「気絶してる」

004の腕の中で、加速と揺れに耐えきれなかったマオがぐったりと首を垂らしていた。

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