「んもぅ、002ってば!無茶するんだから!」 ドルフィン号に到着して早々、002はメンバーの紅一点からガミガミとお叱りを受けていた。 「しょうがねぇだろ!?爆弾が爆発するところだったんだぜ!実際ギリギリだったんだ!」 「基地の外まで飛行し続けることないじゃない!それかスピードを落とすとか!彼女はほとんど生身なのよ!?」 004は小さくため息をついた。これ以上聞いていられるか、とソファーに横たえている少女にかけるための毛布を探しに行く。 その背中を009が呼びとめた。 「止めなくていいのかい?あれ」 「割り込むと俺にまで矛先が向く。とばっちりはごめんだ」 「でも002がすごい顔でこっち見てるよ」 ドルフィン号に到着した際、ぐったりとした少女を見た003は慌てふためき、とにかく介抱をとその体をひったくった。 そして少女にほとんど改造の痕がないのを見てとるや、強い庇護欲に駆られた。相手が自分と同じ女の子だというのもあっただろう。 少女を抱いていた004は「どうしてこんなことになったのか」と003に激しく言い寄られてしまい、思わず――002のせいだ、と告げ口に近いようなことを言ってしまったのだった。 結果002の恨みを買い、彼のねめつけるような視線が飛んできている。 「おっさん、あとで覚えてろよ…」 「聞いてるの?002!」 「へいへいへい」 「まったくもう、――」 004が毛布を持って戻って来たときには、002の姿はそこになかった。 負傷したこめかみを治療するから、とギルモア博士に呼び出され、これ幸いと逃げだしたらしかった。 甘い匂いが漂っていた。 テーブルの上には朝食が用意されていたが、それではない。開け放した窓から香ってくるのだ。キッチンに立つ女性が、ねぇ、と微笑んだ。 「すごくいい天気だから、今日はどこかに出掛けましょうか。ね?」 優しい声だった。絶えず自分に変わらぬ愛情を注いでくれる人。なのに、顔がよく見えない。 『思い出せないのかい?』 突然それまで見ていた風景が消えた。闇に落とされる。 『君の記憶にかかった靄は思ったよりも深そうだ。僕が無理矢理拾うことも出来るんだけど、君の精神を傷つけてしまう恐れがある』 出来れば君自身の力で思い出して欲しいのだと。 しかしそもそも、自分は思い出したいのか思い出したくないのか、それすらもわからなかった。 『そのようだね…まぁ、ゆっくりでいいよ。時間はたくさんあるんだから』 「ん……」 「大丈夫?」 夢を見ていたようだ。 全身がふかふかする。誰かの細い指が、なだめるように頬に触れた。 「っ!」 マオは思わず跳ね起きる。見知らぬ男女数人が自分を見下ろしているのに気付いたからだ。 「ごめんなさい、怖がらないで。私たち敵じゃないの」 ソファーの横に膝をついていた003は、刺激しないように努めて笑顔で接した。人形のように可憐な容姿をした003に微笑まれ、マオの警戒心が緩む。 (この人たち、) その場には治療中のギルモア博士と002、操縦・見張り役の007、008を除いた6人が集結していた。その全員が同じ赤い衣装を纏っているのを見てとり、彼らが001の言っていた“9人の仲間”だろうかと考える。 『そうだよ』 マオの目の前に揺りかごが浮いた。 『002のアクロバット飛行は災難だったね?』 「――あなたが、001?」 揺りかごの中から小さな小さな手が伸びて、愛想良く手を振った。 ← 戻る → |