餅と鏡とアルバイト


(*当社比ですがキャラ崩壊が進行しつつあります。苦手な方はお控え下さい)



「たっ大変なんです皆さァん!」
「知ってるよ。ギアッチョが連行されたって話だろ」
「実はギ……」
 止(と)めろよ。
 バイト帰りのあたしの慌てようとはまったく対称的に、チーム・リゾットの皆さんは黙々と餅を食っていた。あたしの非常食だ。がっくり来て土間にひざまづくあたしを恐らく理不尽に呆れた目で見ながら、ホルマジオさんが言った。
「何をンなに慌ててんのよ」
「慌てますよそりゃあ……日本じゃあ逮捕なんてそう身の回りで頻繁に起こることじゃあないんですよ……」
 ふうん。と興味なさげに相槌を打ったのが三人。ホルマジオさんとプロシュートさんとメローネさんだ。よろよろと立ち上がったあたしを見上げてメローネさんが餅を噛み千切ってもぐもぐと咀嚼しながら喋る。
「にしてもなんでまた連行なんてされたんだ?」
「コンビニで刃物振り回したら連行されるって常識なんですけど」
「あっ!そうか!隠滅忘れてた!」
「おいおい〜オメーのせーじゃねーかよォ」
「んだよメローネ、やっちまったな」
「ははは」
 仕事でポカした同僚をからかいつつフォローするようなこのノリ……理解不能……理解不能……人が一人逮捕されてるんだぞ……あたしは頭が痛くなってくるのが分かった。あたしの身の回りってふつうの人ばっかりだったんだな、今まで。
「クソ……お前らのせいでウチの醤油がすっからかんなんだよ……どんだけ砂糖醤油好きなんだよ……イタリア人のくせに」
「ソイユサイコー」
「ショーユです。おたんこなす。誤魔化したい時だけ外人訛りになるのやめてください」
 ここ何日間のうち、あたしはプロシュートさんにまでツッコミを入れるようになった。が今はそれはどうでもいい。あたしは半分が優しさで出来た錠剤を探すことにした。
「あ、心配すんなよ、俺はしっかり口止めしてきたからよ。花屋に」
「わあーありがとうございます」
 言われてみれば誕生日にもらった花束もカツアゲしてホルマジオさんとイルーゾォさんがもらって(?)きたんだったな。あった頭痛薬。あたしは、給料日にはお金を入れた封筒をキッチリその花屋さんの前に置きに行く事を決意し、台所に飾ってある花を横目で見ながらコップをとった。
「それで、誰が迎えに行くんだ?」
 イルーゾォさんの声だ。みんなが一斉に黙った。皿と箸がかちゃかちゃいう音と、あたしが頭痛薬を取り出す音だけが部屋に響く。
「………………放っとこう」
 プロシュートさんの声に、あたしは頭痛薬を一錠取り落とした。







「なんだこれ?」
「アルバイト情報誌だそうだ。探せ」
 こんな時頼りになるのはリゾットさんだった。頭痛薬を狂ったようにがりがりと齧り始めたあたしの異変に気が付いて、寄って来てくれたのだ。でもお前もあたしの餅食ったんだよな。醤油の良い香りしたぞ。
 苦い口の中に水をためてなんとかしようとしているあたしの横で、リゾットさんはニート予備軍の前に立ちはだかった。足元には放り投げたフ○ムエー。ニートの卵たちは各々、怪訝そうにあたしとリゾットさんを見比べている。リゾットさんはリーダーの威厳を刻んだ老け顔で言った。
「今後このような事があっては敵に俺らの位置を知られるかもしれない。それに、いくら変態とはいえ部屋を貸してくれている雪子にこれ以上迷惑はかけられん。こいつを困らせて喜んでるお前らの方がよっぽど変態だ」
「んんっんんー(リゾットさん)……」
「それはよォー言い過ぎだろ」
「そうだな悪い。言い過ぎた。とにかくだ。お前ら、これから財布は別々だ。自分で稼いだ金で生活するように」
「チッ、しょおがねえなァ」
「おめーがしっかりしてりゃあリゾットも雪子の味方にはならなかったんだぞ、メローネ」
「おいおい、逆恨みかよ。ギアッチョが人殺しするより先に助けに入ったという点を評価してほしいね、俺は」
 会話を耳に入れながら、あたしはシンクに水を吐き出した。まだ苦い。あたしは諦めて餅を食うことにした。
「みなさん、どうもすいません。本当はあたしが、逆ハーレム的なアレでみなさんのこと養えるくらい生活力があればよかったんですけどなんせ何年もフリーターやってるもんで……あとプロシュートさん、あたしプロシュートさんにおたんこなすとか言ってますけどあれ全部フリです」
「黙ってろバファリン女」
「よし!元気出た!餅茹ーでよっ!」
「なんだあいつ……」
 イルーゾォさんがなんか引いてるけどそんなのはどうでもいい。あたしはもう一度水を口に含みながら作業をすることにした。
 そんなあたしの後ろへリゾットさんがスッと歩み寄る。
「お前はバカだな」
「んんんんん?(そうですか?)」
「頭痛はおさまったのか?」
「んん(はい)」
「そうか」
 言って、リゾットさんは所定の位置へ静かに戻っていった。数冊あるフ○ムエーを拾っていくのも忘れない。さすがリーダーたるものは気遣いの鬼だ。あたしは感心しながら鍋に水を溜める。餅の袋はちゃんと元の位置に戻してあったけど、量はだいぶ減っていた。
 にしても、ギアッチョさんがいないととても静かだ。特に今はみんながバイト探しをしてくれているから会話も少ない。プロシュートさんとペッシさんとホルマジオさんが時たま会話をしてるくらいだ。
 いい感じに茹で上がった餅を、醤油と砂糖を混ぜてある皿(ちなみにメローネさんのおさがりである)に引き揚げる。おいしそうだ。お腹が空いていたことにとっくに気が付いていたあたしが畳の上へ戻ろうとすると、あたしの様子を眺めていたらしいプロシュートさんと目が合った。
「え?目がおキレイですね」
「俺の分も茹でたんだろーな」
「なんだ餅目当てか……ていうかプロシュートさんもう決めたんですか?バイト」
 プロシュートさんが持っていた雑誌をどけて横に座る。
「こんなモンで悩む時間がもったいねえ。あみだくじで決めた」
「へえ、興味深い決め方ですね。ペッシさんも食べます?」
「あ、あああああ!」
「うるせーぞペッシ」
 あたしはペッシさんのテンパりようを気にしないようにしながらペッシさんに皿を渡して箸だけ持った。プロシュートさんが雑誌をとってまじまじと見直している。適当な(悪く言うときったねー)字で書かれた『コンビニ』と『ホスト』と『ビデオ屋』と『ファミレス』が斬新な引き方の線で結ばれている。あたしはペッシさんが持ってくれている皿から餅をうまいこと掴んだ。
「あたし字の綺麗な人好きなんです……はいプロシュートさん、あーん」
 一発殴られると思ったのに、プロシュートさんは形の良い唇を惜しげも無く開く。……驚いたあたしはこれがなにかの罠のような気がしたので、ペッシさんに箸を譲る事にした。
「ぺ……ペッシさん、パス」
「お、おおおおう」
「なんでさっきからそんなテンパってんすか?」
「い、いいいいや……」
「オイどっちれもいーからさっさと食わへろ」
「あ、ああ、わわかったよ兄貴」
「……?」
 はてな顔のあたしが見守る中、はてな顔のプロシュートさんの口にペッシさんが小さく切った餅を入れてやった。あみだくじを眺めるのに気が済んで雑誌を放ったプロシュートさんが、ん、と言って皿と箸を受け取る。
「完璧だな。オレの線の引き方は。自分でもビックリすんぞこれ……センスが溢れ出てる。紙から」
「そこはお前、小さく切らずに口から醤油垂らさせるでしょうが……」
「え、えええあああすすすいやせん」
「なんでそんな謝ってんすかどうしたんすか?さっきから。力抜けよ」
「雪子。携帯貸せ」
「はいどうぞ」
 箸を皿と一まとめにして持って、プロシュートさんは手を差し出した。なんで(下に)置かないのかな、と思いながら辺りを見回すと、畳が一部醤油色に染まっていた。あれ絶対誰かが置いた皿を誰かが踏んづけたな。
 とぅるるる、と電子音が横から聞こえる。ぶつ、と鳴って、すぐに誰か出たようだ。
「もしもし。働きてーんだが。ああ。もう一人一緒だ。ペッシっていう…………あ?んだとてめえ。そっ」
「もしもしお電話変わりました佐藤と申しますう」
 あたしは迂闊だった。外人に日本での常識を教えるのを忘れていた。いや、外人さんでもさすがにバイト先には丁寧な喋り方すると思うのだけど、プロシュートさんが傍若無人だっていうのをすっかり忘れていたという意味でやはりあたしは迂闊だった。タメ口全開な上にガラが悪い。声も低い。おまけに相手からしてみれば『ペッシって誰だよ』ってカンジだろう。

 カンカンの相手先になんとかケリをつけて(話の途中で『南無三!!』と叫びながら切った)、あたしは電話をペッシさんにかけてもらうよう頼み込んだ。キョドってるけどプロシュートさんよりは……マシなはずだ。聞いたところによると、プロシュートさんは丁寧な口調で喋るのが苦手とかなんとか以前に嫌いらしかった。苦いイタリア人の適当さを噛み締める。

「なんてゴーイングマイウェイなの……あたし結婚してもうまくやっていける自信が……」
「おい雪子、このバイトやったことあるか?」
 落ち込むあたしをイルーゾォさんが呼んだ。
「どれどれ……新聞配達ですか……?」
「俺接客業とか断然ムリだから……」
「…………ならいいんじゃないですか……あ、でもキツいと思いますよ、あとウチちゃりんこ無いんで買わなきゃ」
「歩く」
「ウッソ……」
 イルーゾォさんの細い足がどのくらいの距離を歩けるのか不安で仕方がないが本人がそういうのだから仕方が無い。あたしは固定電話の子機をとってイルーゾォさんに渡す。メローネさんは予想通り歌舞伎町界隈の求人を見ていた。

「リゾットさん決まりました?」
「情報が少なすぎるな。日本の社会にもまだ馴染みがないから決められないぞ」
「あーそうですよね」
 さすがリゾットさんは冷静だ。あたしは真面目に話す事にした。
「リゾットさんなにか経験とかないですか?資格でもいいと思いますけど」
「そうだな……泳ぎは得意だし……」
「うんうん」
 期待してリゾットさんの顔を見つめる。
「よく考えてみると、自分のできることってのは少ないな。体術全般と銃の分解・組立くらいか」
「…………公務員試験とか受けたらどうです?」
「国籍が無いと受けられないだろう」
「マジレスかよ」
 そんなリゾットさんにはスイミングスクールのコーチを薦めておいた。

 面接の約束を無事取り付けたらしいペッシさんがリゾットさんに携帯を渡したのを見て私は一息ついた。そういや口がまだ苦い。茹でた餅をプロシュートさんに取られたからだ。
 餅はまだ残っていやしないかとそちらを見ようとすると、青いものが視界に入ってきた。しっかり見覚えのある色だ。いや、それどころか、あんな奇抜な色の髪してる知り合いは一人しかいない。

「オイこのバイト見ろよふざけやがってェェー―――ッ首都圏で時給700円ってナメてんのかァーッコラァーッ北海道クラスじゃあねえかよォーッ!」
「!?」
「ギアッチョさん……?」
「ビビったー」
「……(ビビった)」
 ん?と顔を上げてあたしたちの顔を見るギアッチョさんの肩を抱いて、メローネさんは鼻で笑う。
「え?何?お前ら気付かなかったの?」
「えっメローネさん気付いてたんですか?」
「オレとリーダーは気付いてたぜ」
「オレも気付いてたわナメんじゃねー」
「一体どこから……」
 どこからっていうかどうやって……と言い直す気力も無いあたしに、ギアッチョさんは急に目を輝かせた。
「あッそおーだ忘れてたッ!オイおめーらなんも言わずにコレ見ろコレ!」
 立ち上がったギアッチョさんは、懐から鏡を取り出した。普通サイズの手鏡だ。
「見てろよォ〜〜……ホラ!」
「ああ!!おまっ……」
 悲愴極まりない声を上げたのはイルーゾォさんだ。痛そうに見えたのだろうか、そう言われてみればそう見えなくもない。ギアッチョさんは鏡に手を突っ込んでいる。が、別に鏡が割れているわけでもないし手が裏っかわへ貫通しているわけでもない。
「へえ〜それスゴいですねギアッチョさん!どこのドンキで買ったんですか?」
「ギアッチョ!どういうことだッ!返せよォォーッ!」
「オイオイオイ別に奪ったわけじゃあねーだろーがバカ!」
「え?イルーゾォさんのなんですかそれ」
「ギアッチョ、そういうことなのか」
 リゾットさんが静かに言うと、ギアッチョさんはイルーゾォさんの頭を押しのけながら頷く。
「この間オレらのスタンドが出なかったのは、『元の自分のスタンド』出そうとしてたからってことよ。オレよォ、『せめてマン・イン・ザ・ミラーでもありゃあこっから出られんのになァ〜』と思ったわけよ。そしたらなんと根暗のペンギン野郎が」
「あああああーーーッ」
「イルーゾォさんうるさいんですけど」
「「「「メタリカッ!」」」」
「ギャアアアアア」
 よっぽど手品鏡が気に入っていたらしかったイルーゾォさんをあたしが取り押さえようとすると、プロシュートさんとホルマジオさんとペッシさんとリゾットさんがいっぺんに謎の合言葉を叫んだ。血を吐き出して倒れるイルーゾォさん。『イタリアンコンパニオンが本気を出し始めたんだろう』と咄嗟に空気を読んだ私が本気っぽく悲鳴を上げる。
「いやあーっ どうしたのこれはっ イルーゾォさぁんっ」
「おいちょっと!誰だ今の!いっぺんに言うんじゃねえ!一人ずつ言えマヌケども!オレのメタリカを!オレのメタリカを汚ねえ血で飼ってやがんのは誰だッ!」
「イルーゾォさん……童貞もらってあげるから起きてよお……」
 イルーゾォさんは起きない。
「リ、リゾット……あの、お、オレ……」
「ペッシィィ!お前かァァ!ちょっと……ちょっとそこ座れッ!オレにッオレにメタリカを返せッ!」
「うわああァァ兄貴ィィリーダーの目が本気ですゥゥ」
「おうちょっと待ってろ……ビーチ・ボーイッ!……違うな。マン・イン・ザ……ああこれはギアッチョだったわ。ホルマジオお前のスタンドの名前なんだっけ?」
「えっとね〜」
「兄貴ィィーーーッ」
「リゾットさんキャラ変わってんすけど」
「……うう……雪子……」
「あ、イルーゾォさん起きました?お疲れさんです出番終わったっぽいっすよ」
「オレはもう……オレはもう生きていけないよォォーーッ」
「ちょっ鼻血つくんでくっ付かないでください」

 ……観客のあたしを放っぽって手品大会が何時間も続いたので、あたしはイルーゾォさんをシカトして寝ることにした。


20100411


カオスすぎるwwwwwもう私は……立ち止まらない
イルーゾォってスタンドなくなると完全に自信喪失しそう。最初は周りも使えないから平静を装ってたけど(しかも)ギアッチョが自分のスタンドとかショック極まりないでしょうね

スタンド出さずにほのぼのちょっとギャグ系に行く気満々だったんですが先考えずにギアッチョをブチ込んでしまったもんで思い付きでこうなりました。(つーかスタンドって本人の意志がうんたらかんたらなので本当は交換とか入れ替わるとか無いと思う)
本当は拘留仲間と協力して脱走してくるとかいう展開も一瞬考えたんですがそれじゃギアッチョが面白いことになりすぎるのでやめました。ギアッチョって不良と仲良くなれるタイプっぽくね?最初喧嘩するけどみたいな
にしても兄貴のおとぼけ具合がひどいですね。私は好きですけどこういう兄貴

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