おめでとうって言ってやるほど俺お前と仲良くねえし


それにしても後輩の山中ちゃんはいい尻をしているなあ。

あたしはパフェを作りながらうっとりして、フロアをくるくる忙しく接客して回る山中さんこと山中ちゃんの、ピンク色のスカートが覆う形の良いお尻を見ていた。あたしだって全く同じピンク色のスカートを履いているわけだけども、至って普通の尻だ。なんの変哲も無い。今まで生きて来て様々な形の尻を観察または触診?したけれども、その中でも山中ちゃんのは逸材だ。まるで彫刻のようななだらかな丸みに、あのロフトとかで売ってる異常に柔らかいクッションの柔らかさを兼ね備えたような。あれなんていうんだろうあのクッション。ほしいなあ。あれがあればいつでも山中ちゃんの尻に触れるどころかデカい奴買えば体ごと包んでもらえるわけでしょ。

「あっ、わ」
パフェのグラスからはみ出しかけた生クリームは、あたしが慌てた瞬間にべちゃりと銀色の台に落ちた。あーあ、と息を吐く。一通り見てきた山中ちゃんがタイミングよく空いた食器を両手に持って戻ってきた。
「おかえりハニー。見てーこれ零れちゃったさー」
「ただいまですーダーリン。またやっちゃったんですかぁ先輩」
面白がって言ってるあたりが残念(あたし的にはもっと恥じらいを持ってほしい)な山中ちゃんは顔もカワイイ。小さくてぷっくりした唇をにっこり微笑ませて私の手元を覗き込んだ山中ちゃんから良い匂いがする。それを伝えようとした時、山中ちゃんが綺麗に整えられた爪のついた指先で白い生クリームを掬って、ぱくっと口に入れた。なまめかしく動くグロスの塗られた唇と舌。
「うん。おいしー」
「山中ちゃん。先輩とちゅーしよう」
「あははーグッチのカバン買ってくれたら考えます」
「このう。あたしが月十五万で生活してるの分かって言ってるんだなァ可愛い奴め」
「あははー」
優しく細い肩を小突くと、山中ちゃんは愉快そうに笑った。天然ちゃんめ。愛してるよ。山中ちゃんを抱きしめようとした時、レジに立つチーフがこちらをじっと睨んでいるのに気が付いてあたしはおとなしくパフェ作りに戻ることにした。
「ごめん山中ちゃん、あたしバナナチョコパフェ作らなきゃなんだわ。抱きしめてあげるの後で良いかな」
「あ、そんくらい私がやりますよー」
ほら貸してください、と山中ちゃんはそっとあたしの手からスプーンをとってフレークの山の中にそれを突っ込んだ。
「え、いいよ。いくらあたしが気持ち悪いからってパフェ作っても食べた人にはうつらないよ」
「あは、違いますよぉ。先輩もうすぐ誕生日じゃないですか。誕生日くらい負担へらしますよー」

そう、明日は、というより一時間後には、あたしの誕生日だ。誕生日の前日にバイト入れちゃうんだから彼氏なんかいない、ほしいけど。(イケメンの彼氏が。優しくてかわいくて……。)友達も変態の誕生した日なんか祝えねえよボケがとか言って今日明日二日間みんな着信拒否だし、誰か祝ってくれないかなあと思っていたあたしに、山中ちゃんのその言葉だ。あたしには山中ちゃんが天使に見えた。ミカエル?ガブリエル?ブッダ?よくわかんないけどとにかく超かわいい。あたしは山中ちゃんを後ろから抱きしめた。
「結婚しよう!!」
「あははー家買ってくれたら考えますねー」
「貯金するわそんなん!!結婚ね!!約束ね!!」
じゃパフェお出ししてきますね、と言った山中ちゃん(無視なんかされてない。照れられてるだけだ)をそっと解放してあたしは幸せに浸りながら時計を見上げた。あと数分でアップだ。









山中ちゃんと再会を約束して(「大袈裟ですよぉ」)私はファミレスを出た。外は店内と比べて少しばかり具合の良くない気温だったけど、家にはすぐ着く。着いたらシャワーを浴びて扇風機を回して24でも見よう。明日はバイトが無い。

アパートの古びた階段を音を立てないよう登って、あたしは寄り道せず真ん中の自分の部屋の前に立った。お隣りの加藤くんちの電気が点いていなかったからだ。いつもならピンポンハグしてやるのだけど、あたしの高精度気配探知レーダーは加藤くんをいないと判断した。それなら鳴らしたって仕方ない。あたしはポケットから鍵を取り出した。鍵穴に差し込んでがちゃりと回して、ノブをひねって、引く。











「………………………強盗ですか?」
「おい。無駄口叩くんじゃねえ。俺の質問にだけ答えるんだ。良いな」
首に当たる固いものが、少しの振動と一緒にがちゃりと音を立てた。いくら男の人とこんなに密着出来てるからといって強盗さんはごめんだ。あたし犯罪者には厳しいんだから!お仕置きしちゃうんだから!
「離さないとお仕置……んぐ」
「無駄口を叩くな。三度目はねえぞ」
「待てプロシュート。そいつは一般人じゃあないか?」
玄関から死角になっている壁から、目の真っ黒い人が出てきてさすがのあたしもひっと小さく声をあげた。カッコいい。カッコいいけどその服エロくね?良い胸板ですね。ぜひ抱きしめて下さい。プロシュートというらしい、あたしをがっちりホールドしている人があたしの頭の上で、銃を突き付けたまま良い声で言う……こう言うと黒い目の人は違うみたいだけど、彼も良い声だ。
「ああ、かもしれねえ。だがそれを判断するのは質問が終わってからだ」
「なあリゾット、女?」
「女だ。日本人だな」
壁の向こう側から聞こえた別の声に、リゾットと呼ばれた目の黒い人が答えた。まだいるのかよ。三人でこんな家に強盗に入るなんて何がしたいの?そんなにあたしの事好きなの?ストーカー?
「お前何もんだ。俺達をここへ連れて来たのはお前か?」
「え……」
「『え』?」
「え?」
ぐい、と癖のついた髪を引っ張られた。正面に来る金色の睫毛と白い肌。あたしは驚いた。外人さんだ。確かにさっきの黒い目の人も、変な趣味の頭巾から覗く前髪が銀色だった気がする。ヤバい超かっこいいっていうか人形みたいなんですけど。いやいや……ならどうしてこんなに日本語がペラペラ?普通に考えておかし……
「え、とかあ、とかはいらねえんだよ。俺の質問に答えろって言ったよなァ〜〜ッ……俺はさっき『三度目は無い』と言ったが特別に『あと一回』やる。お前の名前、国籍、職業。答えろ」
「……………………」
あたしはそっと目を閉じた。キスしてもらえるかなと思ったからだ。だがそれに反して、首のところでぱんと音がした。と思ったら首筋に小さな衝撃とぱさぱさしたものが掛かる。思わず目を開けると、色とりどりの紙吹雪。
「……………………………」
「……………………………」
「………………あ、もしかしてあたしの誕生日のお祝いに来て下さったコンパニオンかなんかのみなさん?」
「……………………………」
目の前の綺麗な顔がきょとんとしている。あ、あれか、クラッカー鳴らすタイミング間違ったとかか。励まそうと顔を近付けると体を後ろの壁に叩き付けられた。
「いッ……!あ、あたしあんまり痛いプレイはした事な……」
「おいリゾットッ!お前のナイフ寄越せ!」
「……………無い」
「ボケてんのかッ作れッ!」
「……作れないんだ。お前だって分かってるからグレイトフル・デッドを出さないんだろう」
「ああー―――ッ!!俺も出せねえじゃねえかッ!!」
「お、俺もだ兄貴ィ……」
「あ、俺もだ」
「俺の鏡も無い……」
「えーいやいや。しょおがねーなお前ら。俺は小さくなれ…………あり?なれねえ」
「あのう……」
一気に騒がしくなった部屋が、また一気に静まり返った。土間にうずくまるあたしを見下ろすリゾットさんとプロシュートさんと、リゾットさんの足元からひょいっと覗くいくつかの顔。



イケメンばかりの三次元を捕らえきれずあたしの回路がショートして、目の前が真っ暗になった。



20090726



雪子ちゃんが働いてるのはもちろんジョ○サンです

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