小さなお店
2011/06/12



短編の続きっぽいもの。


夕方、軽い定食屋でもあるこのナッツという小さい店は夜も営業しており、基本的には常連がやって来る。綱吉はその夜からの営業の準備をしていた。

「おはようございます!」

営業前だというのにからんころんと扉が開いて中に入ってきた。

「おはようございます。あれ?今日出勤だっけ?」
「や、違ってたんスけどなんかあいつ風邪らしくて変わったんスよ」
「そうなんだ。メール着てたかな」

そういえば昼間から携帯触ってないやと綱吉が携帯を開けば、新着メールが一件着ていた。中身はやはり今日変わってもらいましたというもう一人の従業員からだった。

「用意して来ますね」
「ごめんねー。獄寺君よろしくね」

従業員は今着替えに行った者の他にもう一人おり、夜は三人体制というのが基本である。
獄寺君と呼ばれた彼は獄寺隼人と言う。大学に入ったばかりで、ここには高校の頃から勤めておりなんでもこの店が大変気に入ったらしい。姉がいてここにちょくちょくやって来る。もう一人の従業員は三浦ハルといって可愛らしい同じく大学一年生であるがまた後々話すとしよう。
そうこうしている間に着替え、といっても上着を脱いでエプロンをするといった簡単なもの、をして獄寺は戻ってきた。

「仕込みですよね?」
「うん。今母さん買い出し行ってるからその間にしてしまおうか」
「ハイ!」

ご飯はもうすぐ炊けると今までしていたみそ汁をまた作り出した。定食と言えばおみそ汁でしょ!と言う母が力を入れているのでナッツのみそ汁は美味いと評判だ。
獄寺は獄寺で昼に少なくなった食材をまだ出来る範囲で継ぎ足していく。なにせ彼は不器用だ。キャベツの千切りをさせてみれば自分の指を切ってしまう程の不器用なので出来る範囲をするというより、出来る範囲しかさせないのである。

「獄寺君さ、ここ長いよね」
「二年ちょいですかね」
「仕事変えようとか思わないの?」

具を煮立たせ味噌をときながら綱吉が問えば獄寺は目を丸くしてカツにする肉にパン粉をつける手が止まった。

「それは」
「ん?」
「それは辞めて欲しいってことですかぁぁあ!!」
「違っ!違うから!」

泣きそうな顔して肉を握りしめるから慌てて綱吉は違うと言う。こうして表情をころころ変えるのは綱吉がいる時だけだとハルから聞いたのはつい最近だ。

「確かに俺不器用ですけど!俺は!」
「違うってば!いていいから!」
「じゃあどうしてそんなこと言うんですかぁぁ!」
「いや長いから別の仕事とかしたくならないのかなって。お客さんも変わった人も割といるし?かっこいいしアクセとかもいっぱい持ってるから、アパレルとかそういうショップもいけそうだしさ」

確かに獄寺は美形であり、イケメンというところに属するであろう。腹違いとはいえ姉も美人である。そんな彼だからこんな定食屋でいいのかと綱吉は思っているのである。

「絶対ここの方が楽しいっス!それにアパレルとか面倒ですよ」
「そうかなあ?」
「そうっスよ。ここの前違う飲食店いたんですけど女がうざいですし、まず綱吉さんいないじゃないですか」
「いやそりゃオレはいないけど」

女がうざいとはなんとも贅沢な悩みだと綱吉は思う。モテたことが一度もないとは言わないが言い寄られる程にモテたことなどはない。イケメンゆえの悩みで自分とは縁のないことだとも同時に思うのだ。

「だから俺はここがいいんです!」
「そっかあ。いてくれるなら有り難いからいいんだけどね」

ふふっと母親によく似た笑い声で笑い、綱吉は火を止めた。獄寺もほっとしたように握った肉を拡げてパン粉つけを再開した。










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獄寺隼人
18歳の大学生。学部がまだ未定なのは内緒。そのうち決めます。
高二の頃からナッツで働き、バイトに明け暮れろくすっぽ学校に行っていなかったが(成績は優秀ですんで)綱吉に「学校なんて今しか行けない!高校生なんて二度と戻れないんだからね!」なんていう感じで叱られ学校にちゃんと行きだす。本気で自分の為を思って叱ってくれた人は初めてだったから綱吉に大変懐きだす。そして奈々にも懐く。
綱吉を「綱吉さん」
奈々を「奈々さん」と呼ぶ。

こんな感じですかね。不器用なのは原作と一緒。笑



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