日が傾いた時間帯、任務を遂行したアリスとサスケは死体を引き渡し終えていた。 「何だか微妙な時間ね。近くの町で一泊してもいいかしら」 「あぁ。確か一時間ほど走ったところにあったはずだ」 首を傾げて問うアリスにサスケは町のある方を見ながら慣れたように言う。アリスは任務中でも宿に泊まることが割と多く、聞いてみれば野宿は体に合わないのだそうだ。無論個人の理由であるため里からお金が下りることはないが、そこはサスケの分も含めてアリスが請け負っている。 町へ着くと程々に賑わっている通りを見回って良さそうな宿屋を見つけた。頷きあって中に入ると品の良い仲居がお出迎えしてくれる。 一泊したいのだが部屋は空いていないか聞けば確認してから大丈夫との答えが返ってきた。 「お部屋の方は一部屋で・・・」 「あぁ、二人一緒でい「いえ、一人一部屋で」アリス・・・」 仲居の言葉に肯定しようとしたサスケを遮ってアリスが言う。眉を顰めるサスケと笑顔のアリスが見つめ合う様子に、仲居はどうしたものかと二人を交互に見つめた。 「一人一部屋だと金がかかる」 「わたくしが出すから良いのよ」 「いくらお前の事情といえどそこまで払わせられるか」 「サスケ、あの時のこと忘れたとは言わせないわよ」 「・・・」 じっとりと笑顔で見てくるアリスにサスケが目を逸らす。 あの時──そう、それは少し前の任務でのことだ。 ────────── その日も二人で任務をこなした後、とある旅館に宿泊することになった。たまたま一部屋しか空いていなかったため同室で。 受付を済ませて部屋に案内されて一服して食事をして。そして問題は浴場から戻ってきた後だった。 濡れた髪を風を起こして乾かしていたところで押し倒されたのだ。それも極自然な動作で。 「ん?サスケ何かあった?」 あまりにも違和感がなかったためそう声を掛けたら溜め息を吐かれた。 事の重大さに気づいたのはそれから数秒後である。疑問から困惑と羞恥に変わった表情を見てサスケは薄ら笑った。 「これで何の反応もなかったらどうしようかと思ったぜ」 「流石に、まずいと思うわよ」 むしろここまでされて恍けていたならそれは天然でも鈍感でもない。ただの馬鹿である。 サスケのみならず過去にもそういったことは何度かあったがこうも積極的なのは初めてだ。さて、どうしたものか。 「(そういえばサクラに聞いたことがあったかも)」 色恋沙汰に疎い自分を心配して、サクラがそっちの方面の知識をある程度詰めてくれたのだ(主にサスケに関連付けられる話が多かった)。その中に確か危険が迫った時の対処法があったはず。 「っや、ぅ」 「考え事か?」 意識が逸れていたことに気を悪くしたのか耳を輪郭に沿って舐めあげられて低く問われる。 次の瞬間── バチンッ!! サスケの頬に、見事なモミジが咲いた。 ────────── 「・・・一人一部屋でいい」 思い出された苦い思い出に頬をさするサスケ。あの時の行動は自分でも想定外だった。ただ、入浴後の濡れた髪とか、しっとりとした血色の良い肌とか、石鹸の香りとか、そういうものに少し箍(タガ)が外れてしまっただけだ。 部屋に案内される間サスケは過去の自分の過ちに内心悶えていた。 綱手に任務遂行と宿泊の趣旨を記した報告書を送って眠りについた翌朝、目を覚ましたアリスは窓の外に来ている鳥を見て体を起こした。 「珍しいわね、朝早くに返信が来るなんて・・・」 小さく欠伸をして鳥の背に着いたバッグから巻物を取り出す。その時ハラリともう一枚紙が出てきて、落ちる前に手に取った。どうやら地図のようだ。何故だろう、デジャビュを感じる。 「んー、と・・・巻物の方は──! サスケ、サスケ!ちょっと来てちょうだい!」 目を通した文章にアリスは声を抑えながらも急いでサスケを呼ぶ。流石忍と言おうか、隣の部屋であっても声を聞き取ったサスケが先程の窓から入ってきた。 「どうした」 「我愛羅が暁に囚われたわ」 「暁・・・!?」 顔色を変えるサスケにアリスは地図を渡す。 続けて巻物の読めば「この連絡を受けてから出たら丁度加勢出来るくらいの時間に到着するだろう」と書いてあった。此方の状態も考慮して予定を組んでくれたらしい。 「すぐに準備をして旅館の入口で待ち合わせ。いいわね」 「あぁ」 サスケは地図をアリスに戻して自分の部屋へ帰っていった。
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