五影の笠を前へ── 高い建物の最上階の部屋、ミフネの指示で五影がそれぞれ文字の入った笠を机に差し出した。 アリスの席は今回のために急遽設けられた机で、ミフネの隣に静かに腰を下ろしている。 「この場を与るミフネと申す。これより五影会談を始める」 緊迫した雰囲気で始まった会談、まず口を開いたのは我愛羅だ。 自分は元人柱力だと告げて“暁”の危険性と対処の遅さを指摘する。が、土影がそれに異論を唱えた。 忍五大国が人柱力を奪われたとあっては他国に示しがつかない。秘密裏に回収するのが常識、奪われた時点で他国に協力を求めるはずない──と。 それにまた我愛羅が古い考えだと返せば場の雰囲気が冷めたものになる。 しかし尾獣が奪われたからといってそれがすぐに脅威に繋がるわけではない。尾獣のコントロールには技術と知識、時間が必要だ。 「そもそも尾獣をコントロール出来たのはうちはマダラと初代火影の千手柱間、それに四代目水影のヤグラ、雷影殿の弟のキラービーくらいだった。だが──」 ダンゾウが過去を振り返り静かに名を並べていくその中に弟も述べられて、一瞬にして雷影の殺気が膨れ上がる。皆まで言う前に振り下ろされた拳が音を立てて机を破壊するのと同時に、控えていた護衛が、四国の里と雲隠れが対峙する形となっていた。 「・・・イズモ、俺達ここにいていいのかな」 「・・・少なくとも今この瞬間はあの中に居なきゃならなかったと思うぜ」 出遅れて上に残されたイズモとコテツが顔を見合わせる。 流石五影会談。各国連れている護衛が強豪ぞろいだ。そんな中中忍を連れているのはアリスだけで、やはりもっと手練れの者を連れて行った方が良かったのではと二人が内心頭を抱える。自分達だけならともかくアリスの恥になっては顔向けできない。 肝心のアリスはというと二人が出てこなかったことに関しては特に気にする様子でもなくただダンゾウの話に自分の名が並べられなかったことに安堵していた。尤も、里の利益のために動くダンゾウに限って自里の利益を揺るがすようなことなどしないとは思っていたが。 「ここは話し合いの場でござる。礼を欠いた行動は慎んでもらいたい」 溜め息をついて告げられたミフネの言葉に各国の里長が護衛を下がらせる。雷影も一旦落ち着いて腰を下ろしたところでアリスが「暁の情報を整理しましょう」と場を取り持つ。 「メンバー構成は各国の抜け忍でこの中では木ノ葉、岩、砂、霧から出ているわね。現在残っているのは三人。 いずれも面倒な能力を持った強者ばかりで、過去にお世話になった里もあるのではないかしら」 「その件についてはもう調べがついている。ワシはお前等を信用しておらん。話し合いすらする気もなかった!」 再び過熱してきた雷影。そこに土影が開き直って暁の利用を肯定すればせっかく話し合いになりつつあった空気はまたもや殺伐としてきた。 暁を利用してきたことを知らない様子の我愛羅に雷影が目を向ける。 砂は暁を木ノ葉崩しに利用した。大蛇丸だ。あの時暁を抜けていたかどうかは定かではないが奴の所為で我愛羅の父、四代目風影が死んだ。 「──尤も、これは誰かの画策である可能性も捨てがたいがな」 古狸が。 静かに座っているダンゾウを雷影は睨み付けて、次に水影に目を移した。 一番怪しいのは霧隠れだ。暁発祥の地とも噂がある。 そう指摘された水影は思い詰めたように目を伏せるが、少しして意を決したように顔を上げた。 先代水影のヤグラは暁に操られていたかもしれないと、その情報に雷影が「どいつもこいつも」と吐き捨てる。 そんな終わりの見えない言葉のやり取りを止めたのがダンゾウだった。 暁のリーダーは恐らくうちはマダラだ。 告げられたそれに会場が静まり返る。「奴が生きていたのは数十年も昔の話じゃないのか」と問う我愛羅に周りが同意を示した。 「今のマダラに関してはアリスの方がよく知っているかもしれぬな」 一度暁に潜入したことがあるだろうとダンゾウがアリスに話を振れば全員の目が集まる。アリスは一瞬だけ眉を顰めるも小さく息を吐いて何を話そうか思案し始めた。 「・・・確かに、うちはマダラと名乗る男には会ったわ」 「嘘ではないだろうな!? まさか生きていたというのか・・・!」 「どうかしらね。顔を見たわけではないし彼が本物だという証拠はどこにもないわ。尤も、写輪眼を持っていて使い方からしてうちは一族だということは間違いないと思うけれど」 「随分と落ち着いているな金蘭よ。普通うちはマダラの名が出たら警戒するもんじゃぜ。まぁお前のような平和な時代で育った若輩者にはうちはマダラの脅威は分からんじゃろうがな」 「あら、警戒はしておりましてよ土影殿。ただ本人かも分からぬうちに過去の幻影に囚われて怯えるほど小心者ではございませぬゆえ」 ゆったりと、緩く笑みを浮かべるアリスに土影が頬を引き攣らせた。 しかし話し合いの場では気を荒げた方が負けだと、こんな小娘の言動に振り回されるわけにはいかないと、鼻を鳴らすに止める。 同じ歳でもまだ風影になって日が浅く何も知らない我愛羅とは違い、何故だか政や水面下の戦いに慣れているアリスは面倒くさい。
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