サクラの不安げな声がアリスの耳に届く。木ノ葉の上空にいるペインを見たまま、アリスも顔を険しくさせた。 「何かあるのかしら」 「アリス様、里にいたペイン達が引きました」 「ペイン達が引いた?」 肩に乗っていたカツユの情報にアリスが訝しげに聞き返す。今の所ペインが優勢だったはずだ。引く理由などどこにもない。にもかかわらずペインと小南が里から消えたなど何かあるとしか思えない。 「サクラ、ちょっと抜けるわ。現場の指示をお願い」 「あ、うん・・・」 印を解いたアリスがペインを見上げて目を細める。里を見下ろして両腕を掲げる彼が一瞬こちらを見た気がした。 そして── 「──っな、に!?」 ガラガラと、凄まじい音と共に里が吹き飛ばされていく。その光景に目を見張って引き攣った声を零したアリス。 このままでは里が壊滅する。 鈍いながらも繋がった思考に体が先に動いた。里の中心に向かって手を掲げて集中すれば、広がる斥力を包み込むように無数の蔦薔薇が絡み合って壁を成す。それでも防ぐには至らず綻んでくるのを見て更に外側に幾重にも蔦薔薇を這わせた。それでも溢れてくる力が里を削るように吹き飛ばしていく。 「アリス、これ大丈夫なの・・・!?」 「悪い、っけど、サクラ・・・ちょっと、っ・・・今は」 中からの斥力を押さえつけるのにいっぱいで歯を食い縛って呻くアリス。包み込む蔦薔薇が次々と吹き飛ばされて更にそれを覆うように絡ませてを繰り返すが被害は納まるどころか広がる一方だ。 飛んでくる破片が肌を掠って血が滲む。 どれだけの時間がたったかようやく辺りが静かになった頃、バラバラと崩れた蔦薔薇の内側には大きなクレーターが出来ていた。里の半分以上が更地になっている光景を見てアリスの顔からスッと色が失われていく。 冷水を浴びたように血が引いて、サクラがナルトを呼ぶ声もどこか遠くて。 我に返ったのは蝦蟇を連れたナルトが綱手を狙ったペインを潰した頃だった。 一転して一気に頭に血が上ってゆく。サクラと日向一族の誰かが引き留めるのも耳に入らず、ペインに向かって地を蹴った。 「こんな奴等に木ノ葉の火影が出るまでもねーよ。バアちゃんはゆっくり茶でも飲んでてくれ」 綱手の前に立って「決着をつけてやる!」と声を上げるナルトにペインも天道の能力が使えない時間を繋ぐために陣を組む。 里の者に戦いに手を出さないよう伝言を頼んだナルトは綱手からカツユを受け取るとカカシの行方を聞いて、そして返ってきた沈黙に「そうか」と呟いた。 その時、ペインの後方上空から振ってくる一つの影が。 「はああぁぁっ!!」 勇ましい声と共にペイン天道のいる場所に稲妻が落ちて、気配を察して避けた地がバリバリと砕け散る。土煙が納まったそこには珍しいまでに激怒したアリスがいた。 周りが口を開く前に腕を掲げて振り下ろせばどこからか無数の氷塊が降ってくる。 全てを避けるペインに苛立ったのか更に宙を手でなぞれば炎やら水やら雷やらがアリスの動きに合わせて戦場を飛び交った。 「おいアリス!落ち着けってばよ!」 「落ち着け!?これが落ち着いていられるとでも!?」 怒鳴るように言ったアリスの感情に比例して土石流が起きる。それを滑るように避けるペインに今度は火の玉が飛んで砂嵐が吹き荒れた。それが納まってきたところで、ペインの様子を窺っていたアリスを暗部が三人がかりで取り押さえる。 「離しなさい!」 「落ち着いてくださいアリス様!」 「離せと言っているのよ!あの男だけは!わたくしが!」 「冷静ではない状態で戦っては危険です!」 「ここは一旦引きましょう!」 取り乱すとまではいかなくとも怒りにいつもの冷静さがないアリス。力がないのが幸いしてすぐさま押さえた暗部達だがアリスは構わず集中して空間ごと潰していく。口寄せを使う畜生道と魂を抜き取る人間道の体が嫌な音を立ててひしゃげた。収まるところを知らない怒りに酷く手を焼く暗部達。 「アリス様、落ち着いて「離しなさいったら!」」 「貴方に何かあったらどうするんですか!」 「だったら!里を壊滅に追い込んだあの男を捨て置けと!?冗談じゃないわよ!」 「落ち着くのじゃ、アリス」 「・・・っ、ヒルゼン様」 駆けつけた三代目火影に呼ばれたアリスがピタリと止まると、拘束を解かれて自由になった体で振り返った。厳しい表情の三代目に小さく首を竦める。 「冷静を失うでない」 「・・・申し訳、ありません」 「ナルト、ペインは任せる。・・・行くぞ」 「はっ・・・」 「任せとけってばよ!」 頼もしい返事を返したナルトにアリスは一瞬だけ目を寄越すと、三代目達と共に前線を引いた。
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