木ノ葉隠れにて、阿吽の門で門番をしていたコテツは大きな欠伸を一つ零した。「緊張感なさすぎないか」とイズモに窘められるも砂隠れの一件が終わって疲れが出たらしくダラリと体の力を抜いたままでいる。 ──だがしかし、そんな平和極まりない穏やかな今日(コンニチ)を壊すものが現れた。 「・・・ん?」 「なんだ」 門の外、ずっと遠くから感じた“何か”にイズモとコテツが顔を引き締める。霧が掛かる道の向こうを注視していると一つの人影が認識できた。何やら雄叫びのようなものを上げながら凄いスピードで此方へ近づいてきている。 「お、おい。あれ砂隠れに行っていたガイさんじゃ・・・」 「背中に乗ってるのって・・・カカシさん、だよな」 そこからは言葉が出なかった。朝っぱらから燃えまくる木ノ葉の気高き碧い猛獣と、そんな猛獣に背負われている今にも死にそうな天才コピー忍者。 ・・・暑い。暑苦しい。そしてキツい。主に見た目が。 呆然と二人が見ている中、カカシを背負ったガイは門のすぐそこまで来ていた。 「ラストスパートォォォ!!! ゴオォォー「ほっ、と。ただいま」ルゥゥウ!!?」 ズシャア、と痛そうな音を立てながら、一歩先に門の内に降り立ったアリスの横を顔面スライディングで通り抜けるガイ。・・・と道連れなカカシ。 自分の足元を滑り抜けた緑の物体にアリスは何事かと視線を下げた。 「ちょ、ちょっとガイ先生、カカシ先生!? 大丈「うおおぉぉぉ!!!」え?」 再び門の外から聞こえてくる声にアリスは振り向き、イズモとコテツは今度は誰だとジト目を向ける。 霧の中からは何やら荷物をたくさん背負った緑色の少年が一人。 近所迷惑になりそうな雄叫びを上げながら近づいてきた彼は門をくぐってガイの隣で急停止した。 「惜しくも二着!!──あれ、アリスさんじゃありませんか。という事は僕は三着ですね!」 「何の競争・・・」 「さぁ・・・」 呆れながら引きながら、門番二人が小さく零す。アリスも相変わらずな二人に引き攣り気味な苦笑いを零していた。 「リーよ、まだまだ修行が足りんな」 「はい!次こそは一着になるよう頑張ります!」 「しかし、ここで残念な報告がある。 ・・・リーよ、お前は三着じゃない。──お前は・・・四着だ!!」 「朝から元気な人達ね・・・」 「アリス様・・・お疲れ様です、色々な意味で」 「イズモとコテツもね。──あらナルト達、お帰りなさい。そしてお疲れ様」 「あれ、なんでアリスがいるんだってばよ・・・」 「ちょっと綱手姫に報告があるからナルト達の到着に合わせて戻ってきたのよ。そうしたらガイ先生とリーが・・・」 「相変わらず、このノリにはついていけん」 周囲を置いて盛り上がる二人にネジが顔を顰めて言い放つ。 暫くして漸く落ち着いたガイが報告に行こうと言ったが、彼に背負われているカカシを見たサクラが病院にと言ったことで先にカカシを送り届けることになった。 ────────── 「──また此処か」 木ノ葉病院の一室、目を覚ましたカカシは開口一番に言った。 その時ちょうど良いタイミングで病室のドアが開いて綱手とシズネが入ってくる。 「ご苦労だったな、カカシ」 綱手の登場に体を起こそうとするカカシだが、叶わず体の力を抜いた。 一週間はベッドの上、任務復帰には更に数日との診断が下されて深く息を吐く。 「ガイ班も今日は休め。報告は後日で良い。 アリス、例の件で話がある。サクラも来い」 「え、あ、はい!」 名指しされたアリスは小さく頷きサクラは一瞬慌てて返事を返す。 ガイ班とナルトとカカシを置いて、四人は病室を出た。 ────────── 「報告書は受け取った。この話を知っているのは・・・」 「わたくしと砂の相談役と、報告書を見た方だけよ」 「ならアタシとシズネだな」 「あの、何の話ですか」 病院から出て歩きながら話す綱手達にサクラが首を傾げる。割と重要そうな内容らしいが自分が聞いても良いのだろうか。 「サソリから得た情報なのだけれど」 「サソリ!?」 「声が大きいわ。詳しくは火影邸に着いてから話すから」 窘められたサクラが周囲を見渡してから頷く。綱手とシズネもアリスに目を向けられて小さく首を縦に振った。 「──暁のアジトに突入した日から十日後・・・つまり六日後ね。その日の真昼、草隠れの天地橋へ行くと良いと言われたわ。サソリのスパイが大蛇丸の所に潜入しているから、その方と落ち合うことになっているのですって」 火影邸の外回廊にてアリスがサソリから聞いたことを話す。サクラとシズネは難しい顔を、綱手は案外落ち着いた表情をしていた。 「天地橋か・・・信用できるのか?」 「えぇ、状況やサソリの性格からしてわたくしは信用しても良いと思っているわ。 ただ限りなく低いとはいえ、この情報が罠で暁が待ち伏せしているという可能性も捨てきれない。もしそうなら・・・戦闘になるわね」 「戦闘になると言ってもな・・・カカシは一週間以上あの様、最近任務続きだったお前とサスケも休養を取らなければならない。この時点で主戦力となる三人がいない上に班員割れを起こしているぞ」 「わたくしはまだ戦えるわ」 「相手は最悪S級犯罪者だ。“まだ戦える”なんて状態の奴を行かせるわけにはいかない」 冷静に言う綱手にアリスは押し黙る。確かに今の自分は暁のメンバー相手に勝利出来るほど万全の状態ではない。 こんなことなら任務の数をもっと減らしておくんだった。 「・・・班員を補充していただければ、私とナルトは行けます」 「サクラ、」 「昔みたいに三人の後ろに隠れているしか出来ない私じゃないわ。私もナルトも力をつけてるし、それは今回の風影奪還でも分かったこと。大蛇丸を潰せる可能性があるなら私はこの任務に行きたい」 面向かうサクラは、これだけは譲れないと強い瞳をしている。しかしアリスの気持ちは浮かばれたものではなかった。 だって危険すぎる。相手がどちらであっても。 そんな時不意にシズネが「綱手様」と声を上げた。 「別の小隊を送り、様子を見るべきです。百歩譲ってサクラを行かせたとしてもナルト君は外すべきです」 「・・・シズネ。アリスもサクラもお前同様アタシが心から信用できる数少ない忍だ。この任務は必ずカカシ班に行かせる」 「それなら私の隊が行っても同じじゃないですか!」 「同じではない。 サクラもナルトも、狙われやすいサスケとアリスを守ろうと必死になっている。二人の力になりたいと誰よりも強く思っている。その強い思いが任務を成功に導く。・・・お前とサクラとは違う」 静かに諭した綱手にシズネが顔を俯かせて「そうですか」と呟くように言う。しかしせめて今回の任務は外した方が良いということを伝えるべく口を開いた、がしかし。 「あぁ・・・シズネ嬢、残念だけれどもう遅いと思うわよ」 「この話を聞いた以上、ナルトがなんて言うかな」 アリスと綱手が見上げる先、火影邸の屋上に仁王立ちになっている影が一つ。 「さっそくメンバー探しだってばよ!」 そう豪語したナルトは屋上から飛び降りて綱手が寄りかかる手すりに一旦着地する。「じゃ」と挨拶のような言葉を掛けると任務のメンバーを集めるべく広い里へと飛び出した。 「ったく・・・あのせっかちが」 「ふふ、まだ話の途中だったのにね」 小さくなっていく背を見つめながら、綱手とアリスは呆れたように笑った。 「本当に大丈夫でしょうか・・・。もし万が一のことが起こったら、」 「案ずるな、その点はちゃんと考えてある。カカシとサスケとアリスが抜けた穴は此方で二人、人員を補充する。ナルトにもそう伝えておけ」 「あの・・・二人、ですか」 「本来は下忍三人に上忍一人のフォーマンセルが基本だ。第七班が特別だっただけで、もしお前達が将来下忍を担当することになったらその時は恐らく基本の人数になる。今から慣れておいた方が良いだろう」 そう告げた綱手は、話は終わりだと手すりから体を離す。苦い顔をしながらも納得したシズネやあまり良くない雰囲気に居心地が悪そうにしているサクラ、そして話がまとまってホッとした様子のアリスも中に戻ろうと踵を返した。 その時── 「綱手」 厳しい声が響いて四人が顔を其方へ向ければ、うたたねコハルが立っていた。 「少し話がある。顔を貸せ」との言葉に険しい表情の綱手と少し気まずそうなシズネを見たアリスは小さく息を吐く。 「その話、同行しても?」 「大した話ではない」 「・・・そう」 暗に来るなと言われて少し眉を顰めたアリスは、険悪な空気に心配になりながらもサクラと共にその場から立ち去った。
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