小南とだけ戦っていた時とは違って攻撃的にペインに挑んでいくアリス。時々紙が肌を掠るがその程度であれば切った傍から治っていく。 「(やりづらい・・・ペインを上手く盾にしているわね)」 紙手裏剣を放てば間にペインを挟み、ならばと軌道を変えて仕掛けてもその先に彼を誘導される。起爆札も使えない。 遠距離を好むはずのアリスが接近戦で常にペインの近くにいるせいで小南は迂闊に手が出せなかった。 「(小南を防いだのはいいけれど、このペインの能力がまだ分かっていないからね・・・先程戦っていた忍の言葉から捕まるのは避けた方がいいという事だけだわ)」 振り下ろした剣を弾かれてその隙をついて手を伸ばされる。が、体勢を落として避けると剣を構えて相手の腹に突き出した。しかし体を捻って避けられる。そしてその先、紙手裏剣が迫っていることにアリスは目を見張った。 しまったと、息を詰まらせて反射的に体を地に倒すと勢いを殺さないまま転がって紙手裏剣の軌道の下を通る。 間一髪と胸を撫で下ろしたのも束の間、次の瞬間には上から槍のように振ってきた紙の雨にチャクラで地を弾いて避けていく。クナイや手裏剣を放ちながらそれを続けていると向かって二時の方向にもう二人、オレンジ色の頭が見えた。 向かう先は確か雨隠れの忍から情報を引き出している尋問部隊がいたはずだ。行かせるわけにはいかない。 雷を地に走らせて二人の行方を阻むと立ち止まって此方を振り向いた。それと同時に印を組んで進行方向に崖を造れば舌打ちを零して向かってくる。 「これだけの数を集めてどうする。一人でやるつもりか」 「やらなくてはならないでしょう」 どの里でも主戦力となるのは下忍だ。そしてそれを率いる部隊長クラスの中忍となれば数は少なくなり、里の中核的存在である上忍ともなれば本当にほんの一握りである。 「(ペイン達を相手取るにはせめて上忍以上の実力でないと難しい・・・)」 後ろから繰り出された金属棒を避けながら印を組んで炎を吹き出して。三人のペインは視覚が繋がっているせいで攻防共にやりにくい。 しかも能力が三人共分からない。中でも一人見たことがないのがいる。 「(ペインって六人・・・一人倒して五人のはずではなかったかしら。あの女性は初めて見るわよ)」 「口寄せの術!」 「なっ・・・!?」 今まさに考えていた女が口寄せをして、アリスが目を見張る。口寄せのペインは自来也が倒したはずでは。 術式から出てきたサイを避けるがしかし、突っ込んだ先にあった建物を見て「しまった」と顔を歪めた。 木ノ葉隠れ情報部── 戦っているうちに上手く誘導されていたらしい。そして口寄せ動物に気を取られているうちに小南以外がいなくなっていた。 「貴方から聞き出すより他に知っている者を手分けして探した方が早い」 「・・・なるほど」 舌打ちしたげに息を吐いたアリスが、崩壊した情報部からカツユに守られて飛ばされたイビキ達を見つけた。その中にペインの解剖を任されていたシズネを認めて何か進展があったのかと小南に注意を向けながら彼女達の所まで下がる。 「シズネ嬢、何か分かったの」 「アリス様!はい、今こちらの部隊と情報の照らし合わせをするところでした」 「それならわたくしも──いのいち、何か気になることでもあった?」 一人驚いた表情をペインに向けていたいのいちに気付いたアリスが言葉を止めて怪訝そうに声を掛ければ、小さく「はい」と答えが返ってきた。 「雨隠れの男の頭の中を覗いた時、あいつを見ました」 「でも向こうで見たペインの中にあれはいなかったわ」 「いえ、その時あの女はペインではなく──死体でした」 いのいちの言葉に、アリス達が驚いた表情で弾かれるようにペインに目を向ける。 これは少し厄介な仕掛けがありそうだ。シズネとアリスが目を細めて考えるが考察するにはここは危なすぎる。 「・・・シズネ、いのいち、いの。貴方達は別の場所へ移って情報の整理を。 イビキ、あのペインを捕らえて情報を聞き出しなさい。 暗部はシズネ達の護衛とイビキの援護に別れて。 わたくしは小南を倒す」 「「「はっ!」」」 応答と共にシズネ達が暗部を連れてそこから駆け出す。イビキと暗部は畜生道に向き直り、アリスが小南と対峙した。ところで、「アリス」と落ち着いた声が聞こえて小南を警戒したまま意識をそちらに向ける。シノが一族と共に並んでいた。 「“暁”の女は俺達が引き受ける」 「貴方達の実力を疑っているわけではないけれど、でも・・・」 「お前は病院に行け。怪我人が多すぎて医療忍者が追いつかないらしい」 「っ・・・分かったわ。ここは任せる」 「あぁ」 シノの情報にアリスはハッとして駆け出した。 確かに里の惨状を見るに怪我人の数は相当なものだろう。病院へ近づくにつれて怪我人を連れて移動する忍達をよく見るようになった。想像以上だ。 中へ入ってサクラの下へ案内してもらえば重症者が並んだ部屋に通された。 「──サクラ!」 「アリス!丁度良かった!怪我人が多すぎて診きれなくて・・・手を貸してほしいの!」 「えぇ、そのつもりで来たわ。 医療忍者は全員、配置について!」 「「「はっ」」」 アリスの指示で、本人も含めて外に出ると病院を囲うように配置につく医療忍者。全員で印を組むと術式が広がって病院全体が淡い光に包まれた。アリスのチャクラとサクラ達のチャクラコントロールがあってこその、広範囲の掌仙術だ。 「本当、アリスが来てくれて助かったわ。次から次へと患者が絶えなくてもうどうにもならない状態だったのよ」 「シノから話を聞いてね。まさかここまで酷いとは思わなかった」 「ナルトはまだかしら・・・」 「呼んでから結構経つの?」 「えぇ。連絡蛙が伝えてくれてるはずなんだけど」 「おかしいわね。妙木山までの行来には時間は掛からないし、連絡を聞いたナルトが黙っているとも思えないのに・・・」 怪我人の治療を行いながら然程離れていないサクラとの会話に眉を顰める。しかし暫くしたところで何かに気付いたらしいサクラが遠くを見ていて、気になったアリスがどうしたかと聞けば「ペインが」との答えが返ってきた。 そちらを向けば里中央の上空にペイン天道が浮かんでいる姿が見えて。 嫌な予感が頭をよぎった。
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