ナルト達が任務に立って数日、アリスはカカシの見舞いに訪れた。砂から帰ってきた当日よりは大分顔色が良くなったカカシに挨拶をして花瓶に飾ってある花を新しいものに変える。 そして来客用に置いてあるベッド横の椅子に座ると持っていた袋からパックを取り出した。 「今日はわらび餅を持ってきたの」 「・・・あのさ、俺が甘いもの苦手だって知ってるよね」 「そんなこと言って、恋人が出来たらどうするおつもり?甘いものが好きな女の子は多いんだから食べられるようにしておかないと。先生の好き嫌いで甘味処に連れて行ってもらえないなんて、その恋人泣くわよ」 「いや、まだ今のところ出来る予定はないし・・・というかいきなり俺の恋人云々なんて何事よ」 「綱手姫が心配していたから」 まさかの里長を出されてカカシが無言になる。 更には、三十過ぎても女の影が一つもないからそろそろ考えた方が良いんじゃないかと言っていたと聞かされて、遠い目をしてため息を吐いた。 「五代目だって独身でしょうに・・・」 「良い女ほど結婚できないものなのかしらね」 「中々深いこと言うね」 「メイ姫からの受け売りよ」 「メイ姫・・・?」 「ほら、霧隠れの水影様」 「えっ」 いつの間に知り合っていたんだ。というより何でそんな話になったんだ。驚いた表情のカカシを見たアリスは少し笑って当時を語るべく口を開いた。 「単独の任務帰りに少し寄ったことがあってね。その時メイ姫に挨拶をしたのがきっかけで、ついでに一緒に食事していたらその類の話になって・・・綱手姫もまだ独身なのだしやはり高値の花というイメージがあるのではと言ったら、良い女ほど結婚できないものなのかしらねって」 「君達そんな話で盛り上がってたの」 呆れ半分な視線を貰ってアリスは肩を竦める。でも中々に楽しかったのだ。自分の精神年齢が高いからか照美メイが若々しいからか女の子同士だからか、取り敢えず話は合ったし甘味処に移動して何時間も話し込むくらいには盛り上がった。主に水影の愚痴や苦労や相談事で。 「あぁそれでね、それだったら同じレベルの男性を見つけたらいいと助言したのよ」 「うん、確かにそうだね」 「そうしたら、誰か良い人がいないか聞かれて」 「まぁアリスならそういう知り合いは沢山いそうだしね」 「そこでわたくし思い出したのよ。極身近にメイ姫に釣り合う同い年くらいの独身男性がいるのを」 「・・・え、と。あぁ、ガイ「カカシ先生よ」デスヨネー」 「木ノ葉の上忍最強で忍界に名が通っているし、ガイ先生のように一部の人間とだけ波長が合うような人でもない。それに割と気遣いというものも出来るしね」 いつの間にか持ってきていたわらび餅を食しながらニコニコと語るアリスに、カカシは頭を抱えたくなった。 したのか。紹介したのか。木ノ葉と霧だぞ。それに俺、アリスと違って恋愛結婚派なんだけど。いきなりこの人と結婚してなんて言われても困るんだけど。 そんなカカシの心の内を感じたのかアリスは首を振った。 「木ノ葉からカカシ先生がいなくなっても、霧からメイ姫がいなくなっても、損失は大きいからね。結局流しておいたわ」 「あぁそう・・・良かった」 肩の力を抜いたカカシをアリスが小さく笑う。そしてわらび餅を一つ差し出した。 「取り敢えず一口どうぞ」 「えー・・・その話も流してくれていいよ」 「嫌いでも一つは食べてあげるのが相手への気遣いよ」 「・・・しょうがないな」 遂に押し負けたカカシが顔を隠していたマスクに手を掛けた。 その時、 「おいカカシ、入るぞ」 部屋の外から声が聞こえてガラリと戸が開く。入ってきたサスケは、此方を振り返ったアリスと横になった状態で見舞いの品を食べさせてもらったカカシを見て停止した。 そんな彼に構わずカカシは口に入れたわらび餅を咀嚼して分からない程度に顔を顰める。 「あー、やっぱ甘いわ」 「え、食べた!?もう食べたの!?」 気の抜けた声で感想を言うカカシに、サスケを振り返っていたアリスは慌てて顔を戻した。ごくりと嚥下した彼に少し悔しそうな表情になる。 「今回こそとは思っていたのに・・・」 「うん?どうしたのよ」 「い、いえ、御気になさらず・・・サスケの所為だから」 「はあ?」 来て早々拗ねたような表情を向けられて思い切り疑問を浮かべるサスケ。お蔭で「何やってんだ」と問い詰める言葉は口に出せず終わった。 「ねぇカカシ先生、もう一つ食べない?」 「いや、サスケが怖いからやめとくよ」 「・・・むぅ」 残念そうなアリスは残り少ないわらび餅を食べ終えるとパックを袋に戻して口をキュッと縛る。漸くアリスが何をしたかったか理解したサスケは申し訳なさそうに「悪い」と謝罪を口にした。 「構わないわ。どの道成功していたか分からないし。それより珍しいわね、サスケが自主的にお見舞いに来るなんて」 「見舞いはついでだ。お前を探していたら病院に行ったと聞いたからな。このあと修行行けるか」 「えぇ、大丈夫」 「だったらすぐ行くぞ」 「あら、せっかく来たのだからカカシ先生に挨拶の一つでもなさいな」 思い返せば二人は一言も言葉を交わしていない。別に仲が悪いと言うわけでもないだろうに。 アリスに言われてカカシを見たサスケの目は写輪眼だった。目は口ほどに物を言うと云うが、正しく今のサスケがそれである。 「・・・うん、なんかごめん。でも俺もアリスもそういう意味でやってたんじゃないからね」 「あぁ、もしそうだったら今頃終末の谷から突き落としている」 眉を寄せて物騒な言葉を放つサスケにカカシは苦笑いを零し、アリスはサスケの腕を抓って「こら」と窘める。地味ではあるが意外とダメージを受ける抓りにサスケは写輪眼を引っ込めた。 「それではカカシ先生、お邪魔しました」 「はいはい。次は甘くないもの持ってきてね」 「善処します」 うふふと楽しそうに笑うアリスと相変わらず仏頂面のサスケは、カカシのいる病室を出て演習場へと足を向けた。
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