巡り会いてV | ナノ

「やりました・・・やりましたよ!」
「サクラ、お前・・・」

清々しい笑みを浮かべるサクラにチヨも声を零す。アリスは立ち上がって歩き出そうとするサクラの隣に来て体を支えた。

「お疲れ様、サクラ。すぐに傷の手当てを・・・しましょ、う・・・」

カラカラカラ、カタカタカタ、
後ろから聞こえてきた音に語尾が消えてゆく。目を見張った二人はゆっくりと後ろを振り返った。バラバラになったはずのサソリが修復されていくのが視界に入る。

「何をやったって・・・?」

低い声で言葉を紡ぐサソリに眉を顰めるアリスと唖然とするサクラ。チヨは外れていた傀儡の腕をチャクラ糸で引き寄せて詰まった砂鉄を落とす。そしてポーチから一つの巻物を取り出した。
開いたそれから出てきた靄が次第に傀儡へ変化してゆく。

「──傀儡使いは、使える傀儡の数でその者の能力が測れるといわれるが・・・流石ババアだ」
「すごい数・・・十体も、」
「今までも傀儡使いは何人か見てきたけれど、これだけの数を使う方は初めてだわ」
「チヨバア極意の指の数。噂には聞いたが、それが城一つを一人で落としたというカラクリ・・・」

白秘技・十機近松の集。傀儡の術初代操演者、モンザエモンの十傑作。

「大した傀儡集だ」と落ち着いた様子で呟いたサソリが背から抜き取った巻物を開く。次から次へと、上空を埋め尽くすほどの傀儡が飛び出てくる光景に三人が息を呑んだ。

「・・・流石、祖母が祖母なら孫も孫ね」

苦い笑みを浮かべるアリスがポツリと呟く。本体が傀儡だからこそできる芸当だ。そしてこの赤秘技・百機の操演が最後のカラクリらしい。
武器を構える傀儡達にアリスとサクラはチヨのところまで駆け戻る。

「サクラ・・・お前は既に解毒薬が切れとる。手を出すな」
「──もう分かってますよね。私の性格」

にっこりと笑って言ってのけるサクラ。そういえば性格も綱手譲りだったとチヨは一瞬だけ口元を緩めた。アリスも呆れたように小さく笑みを零す。

「まったく、医療忍者が前線に立つなんてありえないわ。立派な戦闘員がいるのだし、此処はわたくしの顔を立てていただきたいものね」
「二人より三人の方が効率がいいでしょ。それに私はもう弱くないから」
「・・・怪我、したらダメよ」
「分かってるわ」

三人がサソリと傀儡の群れに向き直った。

「これで終劇にするぞよ。覚悟は良いか」
「はい!」
「えぇ」

直後、サソリの体の動きに合わせて傀儡集が一斉に動き出す。チヨは傀儡を、サクラは体術を、アリスは忍術を駆使して襲い掛かってくる大群を次々に払っていった。
途中、隙が生じたサクラを狙った傀儡をチヨの傀儡が殴り飛ばす。

「(サソリの傀儡は確実に減っておる・・・じゃが、奴の傀儡一体に対する集中力は逆に上がっておるようじゃ。その上解毒薬はあと一つ。三人の内誰かが傷付けばいきなりキツくなる)」

険しい表情で状況を見極めていたチヨだが、次の瞬間その腕から血飛沫が上がって「しまった」と顔を歪める。

「大丈夫ですか、チヨバア様!」
「ワシの心配は無用じゃ。それよりお主はサソリを狙え。他の傀儡はワシとアリスで抑える」
「はい!」

一呼吸して表情を引き締めたサクラが一気に走り出す。横を駆けるアリスが印を組んで迫りくる傀儡に炎を噴き出した。焼き尽くせなかったものはチヨの傀儡が叩いていく。

「サクラ、それを使え!」

傍に来た傀儡に球体を渡されたサクラが更にサソリに向けて走った。アリスは少し後ろの方から己を狙う敵を払いつつサクラに迫る傀儡も撃ち落としていく。
立ちはだかる敵の隙間を冷静に見極めたサクラが、腕を振り上げた。

「ここだ!!」

思い切り投げつけたそれは傀儡集の間をすり抜けて一直線にサソリに向かう。そして球体の中から出てきた化け物がサソリに襲い掛かった。

シンと、静まりかえる戦場。

「やった・・・」
「動けまい・・・その封印術はチャクラを完全に抑え込むものじゃ。もうチャクラ糸は使えぬ・・・終わりじゃよ、サソリよ──くっ」

毒が回ってきたのかチヨが傷口を抑えて膝をつく。すぐさま駆け寄ったアリスに続いてサクラも戻ろうと足を踏み出した。ところで、

「 っ! う、しろっ・・・、チヨバア様、アリス!後ろ!」
「「!?」」

二人の背後にゆらりと立ち上がる影を認めたサクラが一瞬だけ声を詰まらせて叫ぶ。振り返ったアリスとチヨは目を見開いた。


ザクリ、

肉を立つ音がして血が飛ぶ。

「アリス!」
「お主・・・!」

チヨの、恐らく脳幹辺りを狙った刀が立ちはだかったアリスの腹に刺さっていた。それと同時にサソリの体を貫いた彼女の手には唯一生身である心臓部が握られている。

「っどうにも、このパーツが・・・っ、鍵のようだから、ね」

サクラに殴り飛ばされた時とチャクラを封じられた時の状況を照らし合わせて漸く出た答え。
動かなくなったサソリから腕を抜いたアリスは、それを逃がさないように掴んだままもう片手で腹を抑えて膝をついた。

「アリス!大丈夫!?」
「えぇ、急所は外れているわ。それより相談役、早く解毒薬を」
「・・・いや、ワシは良い。お前が使え」
「いいから、早くしないと負担が大きくなるわ」
「いらんと言っとるじゃろう。ほれ」

差し出された注射器を拒めば強引に押し付けられる。アリスは渋々それを受け取ってキャップを外すと、素早くチヨの腕に突き立てた。

「何をしておる!」
「わたくしはこの毒が効かないかもしれないし、ついでにその解毒薬も正常に作用するか分からないわ。それに貴方にはまだ棺桶に入ってもらっては困るのよ」

サソリの心臓部を持ち上げて口角を上げるアリス。サクラにチヨの傷を手当てするよう頼んで自分も刺し傷の治癒を始めた。今のところ目の前が霞む程度で大きな苦痛はない。

「──さて、そろそろナルト達の方へ行きましょう」
「アリス、本当に大丈夫?」
「今のところはね」
「何かあったらすぐに言うのじゃぞ」
「えぇ」

巻物にパーツをしまったアリスがサクラに支えられて立ち上がる。傀儡が散らばった戦場を改めて見渡してから、三人はナルト達が向かった方向へ歩き出した。


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