食事時、それはアリスが来てからというもの、少々面倒になっていた。 「もう、何度言ったら分かるの。利き手にナイフ、反対の手にフォーク。付け根のところに人差し指を添えて持つのよ」 「うっせぇっつーの!態々んなことしなくても齧り付けばいいだろ、うん!」 「テーブルマナーの基礎の基礎じゃない。この程度が出来なくてどうやって食事をするというの」 「食べれりゃ良いじゃねーかよォ!」 「そんな獣のような考えは捨てなさい」 「あの、両手に持っているとお面ずらす時に面倒くさいんですけど」 「面を外すか食事をしなければいいわ」 全ての抗議に淡々と返しながら、アリスは目の前の肉を一口サイズに切って口に運ぶ。 一方のデイダラ達は慣れない食べ方を強要されて悪戦苦闘していた。結局投げ出してしまうのが通例だ。 「ったく、何故俺達がこんな茶番につき合わなければならない」 「角都の言うとおりだな。俺達は忍(しかも犯罪者)だ。面倒な礼儀作法身は着ける必要ねェ」 「でも出来て損はないんじゃないかしら」 そういう小南の手つきは中々様になっている。ついでにアリスの隣に座るイタチも慣れた様子で扱っていた。 「つーかよ!なんでイタチ達は何も言われねェんだ!?」 「他は見苦しくない程度に出来ているからよ。それに比べて貴方達はいつまでも学習しない・・・」 「なんで出来るんだよ角都ゥ!」 「これくらい模倣できる」 至極面倒くさそうに言う角都。どうやら毎回口うるさく言われるくらいなら、とアリスの動きを真似ているようだ。 それから数十分、漸く食べ終わったデイダラ達は随分と疲れた様子だった。 まぁいつものように途中で諦めてしまったのだが。 「あ˝ー、なんでメシ食うのに疲れなきゃなんねーんだよォ」 「この程度のことで情けない・・・」 「テメーいい加減にしろよ、うん」 「デイダラさんちょっとお灸据えてやってください!」 低く唸ったデイダラをトビが焚き付ける。本気半分ノリ半分で返事をした彼は食事前に作った起爆粘土を振りかぶった。 「おいデイダラ!」 「待ちなさい!」 サソリと小南の制止も間に合わず白い鳥が宙を舞う。 それと同時に、アリスは首にかけていたペンダントのトップを裏返した。 ドーンと、派手な音が近く遠い場所で響く。アジトに破損はない。 「・・・あれ?爆発どこ行った?」 「(今の爆発の消え方、時空間忍術と同じ感覚だったな・・・)」 破裂するはずだった空間を睨むように見ながら思案していたトビは、続いてアリスに視線を移した。 手に持っているペンダントトップ。爆発時に向けていた裏側は鏡になっていた。 「・・・アリスちゃん!今の!今の何スか!?」 「騒がしい」 「仕方ないッスよ!だってあのデイダラさんの起爆粘土が消えちゃったんですもん!その鏡ッスか?」 「えぇ、まぁ」 「鏡の中で爆発していたな」 「はい、お兄様。鏡の魔法はお母様の十八番なのです。是非わたくしもと思いましたが・・・お母様には足元にも及びませんわ」 眉をハの字にして小さく笑う。酷く思い入れのある魔法のようだ。 直ぐに表情を戻したアリスは部屋へ戻ろうと腰を上げた。 「───あぁ、アリス。三日後、大蛇丸という男のところへ行く。準備・・・は特にないかもしれないが、予定しておいてくれ」 「・・・・・はい」 珍しく即答せずに間を置いた返事。少し緊張を含んでいたと思ったが気のせいだろうか。 歩き出した彼女の姿は通路へ消えて行った。
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