巡り会いてU | ナノ

それから数日、


「鬼鮫、料理を交換してもらえるかしら」

「また毒ですか」

「チッ・・・」


一見長閑(ノドカ)に見える日常の中、仁義なき戦いは常に水面下で繰り広げられていた。

今日も今日とて食事に一服盛られていることに気付いたアリスは最早慣れた様子で鬼鮫に料理のチェンジを申し出る。

彼は苦笑いを零すとその皿を下げて新しいものを持ってきた。


「毎回毎回よく気付くよなァ」

「逆にお前は全く気付かねぇだろうな、うん」

「それはデイダラさんもですよね!」

「ァア˝?」


騒がしい雰囲気に当初は呆然としていたアリスも、今となっては気にすることなく食べ進めている。


「まぁ飛段達は兎も角、サソリさんの毒を判別出来るのは凄いな」

「ったくだ。さっさと押っ死んじまえばいいものを」

「サソリ、コイツはメンバー候補だと言っているだろう。殺されては困る」

「どうせ入る気はねぇ。その内処分することになるんならそれが早まっただけの話だ」

「相変わらず本人の意思を問わないわね。大蛇丸も含めて、暁は物事を勝手に押し進める癖があるようだわ」


アリスの呆れたような言葉に数名が顔を顰めた。


「あんな奴と一緒にすんじゃねェ、うん」

「そうですよ。イタチさんに振られて組織を抜けたと思ったら、里を造って砂と共に木ノ葉を襲撃。それも失敗に終わったら今度は部下を使って金蘭を誘拐。彼が狙っていたのはイタチさんの弟さんだったはずなんですがねぇ。まったく、何を考えているんだか・・・」

「お前が大蛇丸に拐われた時は少し焦った。まさか先を越されるとは思っていなかったからな」

「わたくしもあんなに早く仕掛けて来るとは思わなかったわ。・・・まぁ扱いが驚くくらい良かったから大人しくしていたけれど」


目を逸らして言ったアリスに全員が「は?」とでも言いたげな顔になる。


「あの大蛇丸からの扱いが良かっただと・・・?」

「えぇ。身の回りの世話をする使用人が付いていたしアジトの中なら割と自由に動くことが出来たもの・・・精神的な面はともかく不自由は感じなかったわ。後から考えれば自身のためとはいえ、かなり大切にされていたわね」

「へぇ〜・・・あの大蛇丸がねぇ。ってかなんか評価高くないッスか!?」

「同感だ。木の葉崩しの中心にいた人物を相手にその評価とは・・・」


意外にも大蛇丸を悪く思っていない彼女に黒幕である彼も含めて内心素直に驚く。


「それはそれ、これはこれ。確かに中忍試験の時は厄介なことをと思ったけれど、嫌いではないわよ。面倒見が良いところもあるし研究熱心だもの」

「トンダ御人好シダナ」
「人体実験とか禁術開発とかもしてるってのにね」

「動物実験があるのだから人体実験に文句は言えないわ。それに善と悪は表裏一体。万人が善だと言えば善になるし悪だと言えば悪になる。同時にその善に絶望を感じる者もいれば、その悪に希望の光を見る者もいるわ」

「尤もな意見だな」


カップに入ったスープを軽くかき混ぜながら大人びた表情で語る彼女にペインが鼻を鳴らした。


「だが奴が木ノ葉にとって良くない存在であることには変わらないだろう。・・・ダンゾウと繋がっている節もあるようだしな」


スッと目を細めてアリスを見る。彼女は手を止めると感情の読めない表情でペインに視線を移した。


「・・・何を言いたいのか知らないけれど、取り敢えずダンゾウを如何こうするつもりはなくってよ」

「ほう・・・奴が裏で色々とやっていることを知っていて、か?」

「確かに彼は不穏な噂が絶えないわ。冷酷非道な野心家と危険視している者も多い。

 ・・・それでもダンゾウは木ノ葉にとって無くてはならない存在よ。彼がいるから、ヒルゼン様、四代目、わたくし、そして綱手姫は日の光を浴びていられる。

上に立つ以上避けては通れない里の闇を最小限背負うだけで済んでいる。

まぁそれを理解している者は限りなく少ないようだけれど」


ここまで言ってアリスはスープを喉に流す。短い沈黙の後、トビが感心したように「ほへぇ〜」と声を漏らした。


「なんか年齢の割に達観してるッスね。デイダラさんや飛段さんより余程大人に見えますよ!」

「ああ゛?おいコラどういう意味だ、トビ」

「俺達の方が年上だぜぇ!」

「テメェ等は中身がお子様なんだよ。頭もちったぁ成長させろ」

「サソリの言うとおりだ」


サソリの言葉に同意を示すのは、飛段とコンビを組んでいる角都。アリスは少し同情の色を含んだ眼を彼等に向けた。


「・・・苦労しているのね」


憐れむように言うアリスに小南も軽く苦笑いをする。しかし彼女は直ぐに考え込むような表情になると数秒おいて「アリス」と呼びかけた。


「何かしら」

「気のせいかもしれないし言おうか迷っていたのだけど、一昨日辺りから顔色が悪いように見えるわ。体調でも崩したの?」

「何言ってんですか小南さん!今日だって元気に僕を足蹴にしてたじゃないッスか!体調が悪いなんてありえませんよ!」

「いや、俺も気になっていた。時々表情が暗くなるようだからな」


小南とイタチの指摘にアリスは内心眉を顰めるが、表情には出さず小さく首を傾げた。


「・・・そうかしら。特に問題はないのだけれど・・・1日中気を張っている状態に近いから疲れてしまったのかもしれないわね。部屋に戻って休むわ』

「おや、もういいんですか?」


半分ほど残った皿の料理を見て言った鬼鮫の言葉にアリスは眉を下げて困ったように小さく笑みを作った。


「ごめんなさい。あまりお腹が空いていなくて・・・」

「ねぇアリス、本当に大丈夫?顔色が酷いわよ」


小南の言うとおり、アリスの顔は色を失っており額にうっすらと汗が滲んでいる。

心なしか浅く早い呼吸をしている彼女は、それでも何ともないような表情で小南に視線を移した。


「部屋で少し休めば良くなると思うの。夕食は軽くしてもらえると助かるわ」

「・・・・・」


希望を伝えたアリスが立ち上がる。若干不安定な足取りで歩き出す彼女をサソリは怪しく笑って見ていた。



「──っ」



数歩歩いたところでアリスの身体がビクンと揺れる。急に心臓を鷲掴まれたような激痛に襲われ、思わずそこを抑えて膝をついた。


「アリス・・・!?」


少々慌てた様子のイタチが、浅く早い呼吸を繰り返す彼女に早足で近寄り背を摩りながら顔を覗き込む。

どっと噴き出たような大粒の汗を拭った時に触れた額は異様なまでに冷たい。


「やっと効果が出てきたか」


口角を上げてそう言うサソリをアリスは振り返って睨みつけた。


「いつ毒を・・・!」

「結構前からだな。致死量を入れた料理以外にも極少量の毒物を混ぜていた」

「っ・・・まさか、わざとわたくしが気付く範囲の毒を盛って・・・」

「あぁ、目眩ましになっただろ?」

「貴様・・・!」


ブワリと魔力を帯びた風が室内を駆け巡る。机に乗っている食器がカタカタと音を鳴らし、耐久性の低いものにはピキリとヒビが入った。


「スゲェな・・・これが魔法か、うん」

「皿が動いてるぜェ!」

「凄いッスね!僕、こんなん初めて見ました!」

「黙れ馬鹿共。今はアイツに集中しろ」


テンションの高い三人を角都が冷静に咎める。いつの間にか全員が立ち上がり一部を除いて臨戦態勢に入っていた。


「ククッ・・・良いな、その顔。好きだぜ」

「トビといい貴様といい・・・暁には人の気に障ることを平然と言ってのける痴れ者が多いのね」


苦しそうに、それでも冷たく響く声を紡ぎながらアリスは片手をサソリに向ける。詠唱と共に空中に鋭利な水晶が次々と形成されて彼に狙いを定めた、その瞬間。


「──っ・・・」


アリスの顔が苦痛で大きく歪んだ。震える唇から声を漏らしたかと思うと周囲の水晶がパキンパキンと砕け散ってゆく。

破片が舞う幻想的とも言える光景の中心で、彼女の身体が揺らいだ。そして咄嗟に差し延べられたイタチの腕の中に力なく沈む。


「・・・サソリ」


勝手なことを仕出かしてくれたサソリに眉を顰めるペイン。だがしかし、毒を盛っていた当の本人も納得がいかないような表情でアリスを見ていた。


「チッ、症状が調合通りじゃねェな・・・」

「いやいやいや!問題そこじゃないでしょう!死んじゃったらどうするんですかぁ!?」


焦る者、眉を顰める者、呆れる者など様々な反応がある中、微かに意識のあるアリスがイタチの腕の中で身動ぎした。

辛そうに薄目を開けて何とか自分の足で立とうと奮闘している。


「大人しくしてろ」

「部屋、戻るわ・・・」


イタチの制止にユルユルと首を振って言うと拙い足取りで歩き始めた。


「私が付いて行く」


このままでは間違いなく部屋に到着する前に力尽きるだろうと判断した小南は、アリスを横抱きにする。

そしてペインが頷いたのを確認するとリビングを出て行った。




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