13-1 待ちに待った桜の季節。 あと花粉症の人間には憎い季節。 花粉の飛散量が毎年「例年より多いでしょう」「去年の〇倍でしょう」なんて言われてるけど、人間は受粉も発芽もしないので杉も檜もそんなに頑張らないでほしい。 さて話は変わって最近は寒さも和らいで過ごしやすい時期になったかと思います──ので、お花見をしに桜で有名な大きな公園に遊びに来ました。 屋台も出ているからとてもにぎわっていて、綺麗に咲いた桜の木の下ではレジャーシートを広げた花見客が真昼間からお酒を片手に楽しんでいた。 何か食べようと屋台が並ぶ通りを見れば、唐揚げに肉巻きにフライドポテトに鮎の塩焼きに──食べたいものが増えていって中々決められず、とりあえず全部見てから考えようとブラブラ歩いていく。 やっぱ定番の唐揚げかな・・・いやでももちもちポテトってやつ美味しそうだよなぁ。あ、イカ焼きも捨てがたい。 「"唐揚げ"と"もちもちぽてと"なら買ってあるよ」 「じゃあちょっと貰おうかな・・・あ?」 違和感ない会話が成立したところで我に返って声の元を振り返る。 加州清光だった。知ってた。 彼の後ろには大和守もいて、彼らの姿に一瞬だけ自分の表情がなくなったのが分かった。 「今日は本気で花見を楽しみに来たんだね」 「いや本気でって程じゃないけど。主探しのついでかな」 なるほど頭にネクタイ巻いて紐で吊るした寿司折持ってて「ついで」ですか。 ちょっと何を言ってるか分かりませんね。 というかそれ一昔前の酔っ払いスタイルじゃねぇかどこでそんな知識拾ってきた。 「・・・突っ込み待ちかな?」 「何を?」 通じやしねぇ。 「それより唐揚げともちもちぽてとでしょ。僕たちが買ったの分けてあげるからイカ焼き買っておいでよ」 「え、いや」 「ほら俺達も追加の唐揚げ頼まれて買ってきたところだから早く」 冷めちゃうじゃん、と急かされていつのまにかイカ焼き片手に彼等の隣を歩いていた。 解せぬ。 しばらく歩いたところで向こうに見えてきた一際賑やかな一団。 あれ、なんか人数多くないか。明らかに雰囲気が周りと違う。 というか── 「・・・なんでみんな揃って酔っ払いスタイル」 揃いも揃って頭にネクタイ手に寿司折という謎集団に顔が死んだし思考も死んだ。 一人二人なら『浮かれてんな〜』で済むけど参加者全員だと狂気の沙汰だよ。 誰だよアレ広めた奴。 「おっ、二人ともご苦労さん」 「あ、鶴丸さん。唐揚げ買ってきたよ。あとお客さん」 「っと、君は──そうだ、"ぷうる"で会った・・・久しぶりだな。覚えてるかい?」 少し考えて思い出したようでニカッと笑う鶴丸。 そしてその顔に乗っている髭眼鏡。無論頭にはネクタイを巻いて手には寿司折。 「・・・予想はしていた」 「うん?」 すっごい楽しそうだよ。全力で楽しんでるじゃねぇか。 あと一昔前の酔っ払いスタイルお前のせいだろ。 巻き込まれる前に帰ろう。 「いえ・・・久しぶりです。随分賑やかですね。それじゃ私はこれで」 「まぁ待て。せっかく来たんだから飲んでいったらどうだ?酒も肴もたくさんあるから遠慮しないでくれ」 遠慮なんて一ミリもしてない私の心の内を察しろ。 そんな切実な願いは届かず、鶴丸は加州と大和守に買ってきた唐揚げを向こうにおいて私の分の酒と食べ物を用意するよう頼んでしまった。 「あー、と・・・ねくたいと寿司折は予備がないんだ。すまない」 「むしろ何故にみんな揃いも揃ってその二つを身に着けてるんですか。寿司折なんて邪魔でしょ」 「本で見て面白かったから『現代の花見ではこの格好が正式だ』と広めたらこうなったんだ」 圧倒的被害者である。 [ back ] |