捜索記 | ナノ

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「皆様お待たせいたしました。政府からの回答が出ました」
「やっとですか!それでどうなんですか?」

大広間にて、多くの刀剣を前に管狐が口を開けば今剣が身を乗り出して先を急かした。
皆が大なり小なりの興味を持って、"とある案件"の政府からの答えを待っているようで部屋がシンと静まり返っている。

「えー、皆様から承った案件ですが──きちんと申請していただければ許可するというのが政府からの回答でした」
「本当!?じゃあ時代を超えて主を探しに行って良いんだね!?」

"とある案件"というのは、管狐による本丸透明化計画によって摘発された審神者の代わり──新しい審神者を、自分達で探したいというものだった。
本来は『政府が選出して各本丸に通達→顔合わせをして両者からの了承が得られたら正式に審神者就任』という流れなのだが、色々な意味で何も知らない新しい審神者を迎え入れるのは大半が良い顔をしなかったのだ。

「えぇ。くれぐれも申請用紙の提出をして許可が出てからにしてくださいよ!審神者様がいない本丸なのですから何かあったら大変です!」

厳しい口調で注意する管狐もなんのその、要求が通ったことでザワついた広間。


それは本丸透明化計画から数ヶ月が経って、摘発作業が終わり審神者不在になった本丸に新しい審神者を選出する段階に入った頃のことだった。

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あれから私の生活はほとんど元通りになった。
"ほとんど"というのは、一部違和感が残ったままだからだ。

結果的に言えば私が非日常を過ごしている間に借りていた体の持ち主は、こっちで私の身体に入って行動していたらしい。
要するに入れ替わりである。

こちらに戻ってきたのは運の良いことに土曜の明け方で休日の二日間を使って仕事の把握までできた。
そして不自然のないようにと意気込んで出勤した月曜日。待っていたのは同僚達の冷たい目だった。

──あの女、やりやがった。

ブラック本丸を運営していただけあって性格が悪い事は分かっていた。
まず出勤して挨拶をすれば怪訝な顔をされる。仕事の話でも容易に話しかけられる雰囲気ではない。当然お昼はぼっち。午後に入っていた会議でも私の発言は歓迎されないし。終業して帰るときも挨拶は曖昧にしか返ってこなかった。

唯一の救いは一応仕事をこなしていた事だろう。
戻ってきたらニートになっていましたという最悪の展開だけは避けることが出来た。

これは後から聞いた話だが、あの時の"私"は自己中で主張の激しい性格だったらしい。
何ヶ月もかけて信頼を取り戻して同僚達と昼食を共にするまでに回復した時に聞いたことだ。
ある日突然性格が変わったから本当に驚いたと。まるで別人だったと。元に戻って良かったと。
話を聞けば聞くほど、皆が今こうして再び仲良くしてくれることに私は良い人達に囲まれているなぁと実感する。

そんなこんなで最近になって余裕が出てきたためか頭の片隅に追いやられていたあの非日常を思い出すことが多くなっていた。
ぶつかり合いや怯えられることがほとんどだったけど、やはり半年以上生活してきたせいで他人事とは思えない。

「(何だかんだ心残りは沢山あるよなぁ・・・)」

せっかく可愛くなったのにそれを生かす機会もなかったし。
くっそ・・・あいつは私の身体で好き勝手やったのに私はチヤホヤの"チ"の字もなかったよ。
超男所帯の紅一点だぞ。普通あんな可愛かったら逆ハー目指せるだろ。何で何もなかったんだ。
確かに最後は襲われたけど私の理想としていた"襲われる"とは全然違ったし。掠りもしなかった。

・・・まぁ、全て終わってしまった事だから今更どうこう言っても仕方がないのだけれど。

こうして今日もモヤモヤしながら過ごすのだ。

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「──じゅんびはいいですか」

今剣が鳥居の前で平成の格好をした面々を見渡す。
気慣れない洋服に違和感を顔に出す彼等がそれぞれ頷いた。

「それでは太郎太刀さん、がんばってあるじさまをみつけてくるので、ぼくたちがいないあいだ ほんまるをよろしくおねがいしますね!」
「えぇ。皆さんも『豪に入っては郷に従え』ですよ。主の時代は我々にとっては未知ですから・・・気を付けてください。それとくれぐれも抜刀はしないように」
「はーい!」

本丸の皆に見送られて、第一回目の主捜索が始まった。


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