本丸記 | ナノ

何だかんだ畑耕して種を植えてと時は過ぎました。その時のごたごたは割愛、やってらんねーですよ。因みに春です。現世の暦が三月の下旬だったのでこうなりました。
そして私が審神者に成り代わって霊力とやらが安定したのか、本丸とその周辺に草木が芽吹き始めた。
本当ファンタジーだ。私は未だに霊力の概念とか本丸の所在地とか分からないことばっかりだよ。

しかし本丸の庭を歩いていてふと思った事がある。
──子どもの声がしない。
御存じの通りこの本丸には遊び盛りの子どもが沢山いる。だというのに、はしゃぐ声は聞こえないし走り回る様子も見られない。
子どもはもっとこう──きゃーきゃー言いながら走り回るものじゃないだろうか。少なくとも私の知っている子どもは人数が集まればいつまででも楽しく遊びまわれる体力を持っている生き物である。

「見た目は子どもでも付喪神だから遊びまわることはないのか・・・?」

いやでも今剣は他の子達と遊びたいって言ってたしなぁ。やっぱ"私"が何かしたか言ったんだろうな。
よし、大きい木にブランコ作って遊びやすい雰囲気を作ってあげよう。
夏になったら、外でたくさん遊んで泥だらけになって、おやつの時間になったらシャワー浴びたあと皆で冷えたスイカを食べられるようにしよう。

まぁその中に私が入れるかは分からないけれど。むしろ見送りと出迎えの時みたいに壁に隠れて眺めている確率の方が高い。私としてはそれでも十分癒されそうですけどね。

──────────

パソコンをポチポチッと操作して必要な物を注文する。
そう、現世で流行っていた憧れのDIY!ブランコ作りのためである。
とはいえ今の本丸は資金繰りが中々厳しいため材料は頑丈なすのこ一枚とロープだけ。
そもそも女子力の低い私にDIYというスキルが備わっているわけがないのでこれがいっぱいなのである。



次の日、早くも荷物が届いた。近侍の太郎太刀が不思議そうな顔で見ているのを横目に段ボールを開けてすのことロープを取り出す。

「主様、これらはいったい・・・」
「短刀の子達のためにね、ブランコ作ろうと思って」

タブレットをポチポチと操作して作り方を検索する。
そういえばブランコって横文字だから刀剣達は知らないのかな。
ロープを切ってすのこに縛り付ける様子を興味深げに見ている太郎太刀をこっそり盗み見る。

取れない結び方をタブレットを見ながら少しずつ進めてしばらく、なかなかいい感じにロープとすのこを結び付けられた。あとはこれを庭に生えている大木に吊り下げるだけだ。


──がしかし、その大木の前まで来たところで問題が発覚した。

「と、届かない・・・」

そう、枝が高すぎて届かない。無論太郎太刀も届かない。
どうしたものかと頭を抱えていると不意に太郎太刀が思いついたように「そういえば」と言葉を零した。

「蔵に梯子があったかと思います。取って参りましょう」
「まじか、ありがとう。お願いします」

ひょいと頭を下げた私に彼は一つ頷くと足早に蔵に向けて歩いて行った。後姿が麗しいですなぁ。
にしても本当に静かだ。時々声が聞こえてきたりはするけど基本的にひっそりしてるという感じ。これでも少しはマシになった方だけども。
なんかこう、圧迫感のある雰囲気で好きじゃないんだけどな・・・どうにかしたいんだけど解決には時間が必要か。

「このような所で何をなさっているのですか」

ぼうっと考え事をしていたら声を掛けられて思わず体が反応する。
続けてぐるりと振り向くとロイヤリティー溢れる粟田口の長男様が怪訝な顔で立っていた。いつも思ってたけどこの人"和"って感じじゃないよね。
それよりどうしよう。すっごい不審者に見られてるんだけど。

「えっと、ほら、これ。ブランコ。作ってた」

まさかの会話だったから単語単語で返すのが精一杯で、手に持っていたブランコの途中経過を見せて示す。が、彼の表情は冷めたものだった。
何も言わない彼に「短刀達のために」という事を説明すれば苦虫を噛み潰したような表情になる。しまった、余計なことは言わない方が良かったかもしれない。

「そうですか。弟達のために。それはなんともお優しい事で、えぇ」

うわぁ、超怒ってる。これはヤバい。
表情が本当に私への想いを物語っていた。
今度こそ斬られる?なんて戦々恐々と首を竦めた私だが、彼はギリリと歯を食い縛って私を睨み付けただけで去って行く。
拍子抜けしてしまってそれを見つめているとしばらくして後ろから声を掛けられた。またも心臓が跳ねたがその声が落ち着いた近侍のものであると気付き、ホッと息を吐いて二、三歩軽くよろめく。
どうやら私は自分が思っていた以上に緊張していたらしい。

「大丈夫ですか。・・・何かあったのですか」
「いや、何でもないよ。梯子ありがとう」

想像より大きかった梯子に驚きながらも大木の一番低い枝の真下に立てかけるよう頼む。
ブランコを小脇に抱えて、心配する太郎太刀にしっかりと梯子を支えているよう言って一段一段上っていった。

「・・・あれ、届かない」
「おや・・・」

一番上まで行ったところで手を伸ばしてみてポツリと零した一言。それに応えた太郎太刀を困ったように見下ろすと、彼は自分がやってみましょうと名乗り出た。
ロープの結び方を入念に教えて、場所を交代して今度は私が梯子を支えて太郎太刀が梯子を上っていく。

「──この高さでよろしいですか」
「もう少し下ぁ・・・あ、下すぎ!もうちょっと上げて・・・うん!ここ!」

流石大太刀、あの高い枝まで届くなんて意外な活躍を見せてくれたものだ。
降りてきた彼に沢山お礼を言って早速ブランコに乗ってみる。
テストは大事だよね。私が乗って大丈夫なら子ども達が乗っても大丈夫ってことで。

その後、久しぶりのブランコが楽しすぎて時間を忘れて乗ってたが、文句も言わず控えていてくれた太郎太刀を思い出して彼にも乗るよう促した。
初ブランコはどうかと聞いてみたところ「子ども達が喜びそうですね」とのことで、本人の感想は出なかったがその表情は口元が少し緩んでいたから悪くなかったのだと思う。


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