本丸記 | ナノ

さあさあさあ、審神者クッキングのお時間ですよ。
担当はここの食事に納得がいかずとうとう刀剣達に一から教え込むことを決心した元一般人でございます。
後ろに控えますは本来の食事担当だった歌仙兼定、にっかり青江、骨喰藤四郎、大倶利伽羅。話の通じそうなお方々で何より。まぁ少々不穏な雰囲気なのは否定できませんが。

そして本日の献立は基本中の基本、白米、豆腐とわかめの味噌汁、筑前煮、酢の物、親子丼(ご飯とは別盛り)、です。
ちなみにレシピ本はあったけどどう見ても上級者向けだった。SNS受けしそうなお洒落で華やかで面倒なやつ。

急ぎ仕入れた大量の材料を目の前に「よっし、やりますか」と気合を入れる。隣の今剣が料理の原型たちを見てワクワクそわそわしていた。
後ろの野郎四人は私が厨を爆発させるとでも思っているのだろうか。失礼なほど心配そうな顔をしている。
おいにっかり青江、「まさか己の最期が中毒死だとは思わなかったよ」って聞こえてんぞコラ。

「あるじさまあるじさま、ほんとうにこんなにたくさんつくれるんですか?」
「もっちろん!私、料理は得意だからさ」

そう、私は料理の腕に自信がある──シェフをやっている母が料理の先生だからだ。曰く「料理さえできれば他の才能はいらない」とのこと。勉強は出来なくていいから料理だけは完璧に身につけろと子供の頃から口酸っぱく言われ続けていた。

というのも、母はその料理の腕で大企業のエリート社員である父を落としたからだ。容姿も勉強も家柄も運動も、何もかも凡人であった母の唯一の取り柄──その取り柄により大企業主催のパーティのシェフとして呼ばれて、その伝手で出会ったらしい。だから女の武器は料理という絶対的な自信があり、私も徹底的に仕込まれてきた。

「まぁ私は他にも夢中になってたことがあるからお母さん程料理の腕が良いわけじゃないけどね。でもそこら辺の料理人には負けてないと思うよ」

ドヤァ、と得意げな顔で後ろの野郎どもにも聞こえるように説明してやる。まぁ百聞は一見に如かずって言うしね、時間もないから始めましょうか。

余談だがキッチン家電は私が知ってる物よりかなりハイテクっぽかった。景観は古いのに設備は近未来かよありがとうございます。

──────────

それから一時間と数十分後、大広間には大皿に盛られた夕餉が各長机に並んでいた。今日ばかりは私も誕生日席に座って皆と一緒に夕食をとることとする。
近くには太郎太刀と今剣が座ってくれたが物凄く居辛い。周りの目が痛い。こっち見んな目の前に盛られてる食い物に釣られてろ。

シーンとした大広間、皆が普段どうやって食事を始めているか分からないがしばらく待っても誰も動かないので仕方なく立ち上がった。
別の机に座っていた刀剣達の目も集まる中、部屋全体に届くように大きく息を吸う。

「皆もう知ってる通り、この夕餉は私が作りました!今後貴方方にはこのくらいのレベルを目指して料理を一から覚えていってもらうので覚悟してください!
 ──ってことで、いただきます!」

合掌して言い切りすぐに座って菜箸をとる。今剣も倣って近くの菜箸をとり大皿から手元の小皿におかずをとった。太郎太刀は先に各々に配られていた味噌汁の椀を手に取って静かに口元に持っていく。

「おや、これは美味しい・・・」
「お、ありがとー!時間なくて粉末の出汁使ってるけどね」
「あるじさま、ぼくこのあじすきですー」
「筑前煮、簡単で美味しいよね。でも他のもいろいろ食べるようにね」

私達が普通に食べているのを見て周りの刀剣達も恐る恐る目の前に盛ってある料理に手を付けていく。
それぞれ顔を見合わせて、小皿に分けた料理を見て、箸で口に運んでいた。
皆何でそんな人生今日で終わりかみたいな顔してんの今すぐ私に謝れ。

しかしまぁ予想外に美味しかったのか、一口食べてハッとした表情になった後はひたすら箸を進めていく様子が見られた。うむ、美味しいでしょう美味しいでしょう。
私がどれだけお母さんに叩き込まれたと思っているの。特別な技術なんていらないメニューばかりだけれど私に掛かればこんなものでございますよ!
まぁ彼等が普段食べている物が食べている物だからっていうのが一番大きいのだろうけども。

だがここで、どうにも聞き捨てならない言葉が耳に入り込んできた。

「──いつものよりかはマシだな」

・・・・・・は? "マシ"?

「ちょっと、今"マシ"とか言ったの誰」
「あ?俺だけど」

立ち上がって辺りを見渡せば人相の悪い殺伐とした雰囲気の男と目が合う。
あれは確か、えっと・・・そう、同田貫正国。めっちゃ戦いが好きな奴。
バチッと、奴との間に火花が散ったのを感じた。周りの野郎共よ今更奴を嗜めたって遅いぞ。

「私が作った料理が、いつも食べてるのよりマシ?味覚おかしいんじゃないのどう味わったって桁違いに美味しいじゃん」
「知るかそんなん。マシっつったらマシなんだよ」
「寝ぼけてんでしょアンタ。それか味覚まで筋肉に変わっちゃったわけ?」
「ンなわけねぇだろ馬鹿か。使ってるもん同じなんだから味なんて変わんねェだろうが」
「天と地ほど違うっての!この違いが分からんくらいなら土でも食ってろ芋男。庭で焼いて食ってやろうか!」
「アアン!?言うじゃねェか自堕落女!表出ろや殺られる前に殺ってやるよ!」

売り言葉に買い言葉、ついに同田貫も立ち上がって親指でグイッと庭を示した。
周りがどうどうと宥めてくれるけど話しかけてくれるならもっと平和な時にしてほしい。

お母さん、小さい頃苦手な野菜入ってる料理が出てきた時に「美味しくない」って言ってごめんね。お母さんが怒ってた理由がよく分かったわ。──めっちゃプライド傷つく。

「よし乗った!そっちこそそのクルクルパーになってる舌べら引っこ抜いてやるわ!」

かくして、困惑する周りを巻き込んだ互いの意地を守る戦いは幕を開けたのだ。


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