創設期企画小説 | ナノ


「扉間!扉間!」
「なんだ兄者騒がしい。観念して書類を片す気になっ「それどころではない!」なんだ・・・」

溜めに溜め込んだ書類を捌いていた兄者がこの部屋から逃げ出してたったの数分。いつもであれば夕方まで帰らないことが多いというのに今日は僅かな時間で戻ってきた。
いつになく落ち着かない兄者を取り敢えず殴って沈ませてから話を聞く態勢を整える。

「で?何があった」
「それがな、ツバキとマダラが恋人のようでな、くっ、口っ・・・口付けっ、を、していてな・・・!」
「・・・そういえば今日でもう四徹目だったか」
「俺は寝ぼけてなどないぞ!本当にツバキとマダラが!」
「目を覚ませ兄者。そうなって欲しいのは分かるが相手があのツバキでは難しいのが現状だろう」

冷静な扉間が未だそわそわしている柱間に諭すように言う。何度説明しても信じてもらえない柱間は、とうとう扉間の腕を掴んで部屋を飛び出した。

「おい待て!仕事が溜まっているんだぞ!」
「今はツバキとマダラの事の方が大事だ!新しい甘味処に行くと言っていたから俺達もそこへ向かう!」

こういう時だけ妙に強引な兄に扉間は深いため息を吐いた。

──────────

「新しく出来た甘味処というのは此処か・・・」
「本当に行くのか?大体ツバキがマダラとそのような事になるなどあり得んだろう。見間違い、もしくは人違いじゃないのか」
「いいや、確かにツバキとマダラだった。・・・よし、行くぞ」

深呼吸を一つした柱間が扉間を連れて中に入る。対応にあたった店員にツバキとマダラは来ているかと聞けば、店員は顔を明るくさせた。

「えぇ、えぇ、いらっしゃいますよ!それはもう仲睦まじい様子で・・・おめでたいことです」
「そっ、そうだな・・・。二人がいる個室の隣は空いているか?」
「え?あ、はぁ・・・確認いたしますので少々お待ちください」

首を傾げた店員だが素直に個室の埋まり具合を確認しに引っ込む。
少しして戻ってくると、空いているとの返答があったため案内を頼んだ。襖で仕切られている部屋に入って早々に注文を済ませてしまいツバキとマダラのいる個室の仕切りに張り付いて様子を窺う。

「──なら、此処を出たら商店街でお買い物をしてわたくしの家へ行くというのはいかが?」
「構わないが・・・お前の家で良いのか?」
「えぇ、マダラの所は人がいるでしょう。その・・・二人きりの方が良いわ」
「ククッ、割と大胆な事を言うな・・・ということは、夜は期待しても良いという事か?」
「ん・・・まぁ、その・・・、・・・もう、恥ずかしい事言わせないで」

小さく聞こえてくる会話に千手兄弟が顔を見合わせた。両者共に、特に扉間が酷く驚いた表情をしている。
誰だアレ。
いつものツバキでは考えられない甘い声に偽物かと疑いたくなる。が、マダラがツバキを間違えるとは思えない。つまり本物だ。

運ばれてきた団子など手に付かなかった。ひたすら仕切りに張り付いて二人の動向を探る里長とその弟。
数十分そうしていたところでツバキとマダラが移動することを察し、自分達も後を追うように店を出た。

──────────

どうなっている、本当にどうなっている。
商店街を歩く二人の後を兄者と共につけながら頭の中を必死に整理する。
マダラはまだ良い。ツバキに好意を寄せていたことは周知の事実であったし隙あらば手籠めにしようと企んでいると分かっていた。

──がしかしツバキは別だ。
あのマダラに散々攻められても落ちることはなく、難攻不落とまで云われた女である。
本人も政略結婚は必須だと散々言ってきた。

そう、言ってきたのだ。・・・言ってきた、のに・・・今マダラと手をつないで頬を赤らめているあれは何だ。

「ねぇマダラ、何か食べたいものはある?」
「そうだな・・・稲荷寿司がいい」
「ふふ、マダラったら本当に稲荷寿司好きよね。良いわ。材料はほとんどあるから油揚げだけ買って帰りましょう」

まるで夫婦のような雰囲気で会話を交わした二人が買い物を終えて帰路に着く。このまま家まで付いて行くつもりだったが、人気がない道を歩いていたところで不意にマダラが振り返った。

「おい、出てこい馬鹿と童貞。いるのは分かっている」
「おっとバレていたか。流石マダラだな!」
「感心している場合ではないだろう、兄者。・・・マダラ、これはいったいどういう事だ」
「意味が分からんな」
「馬鹿言うな。ツバキがお前と夫婦の真似事などどうかしている」
「わたくしとマダラが夫婦だなんて・・・ふふ、扉間ったら気が早いわ」

頬を赤らめてマダラに擦り寄るツバキに眩暈がする。マダラも頭を撫でるな!
質の悪い夢かと兄者の頭を掴んで近くの木にぶつけてみた。痛がっている。夢ではないらしい。
では幻術かと疑ってみるがチャクラの流れは正常だ。

「あぁツバキ、やはり夕飯の前に一度布団に入ろう・・・いや、風呂の中の方がいろいろと手間が省けていいか・・・」
「もうっ、人前でそんな堂々と・・・」
「相手は馬鹿と童貞だ。むしろ見せつけてやればいい」

黙れ万年片思い。
イラッとくる言葉に水遁でもぶつけてやろうかと思ったが問題はその後だった。所謂ディープキスというやつに兄者が顔を真っ赤に染めているのが視界の端に見える。
数秒だか数十秒だか経って漸く離れたのだが、いつもなら怒るはずのツバキはマダラに寄りかかって大人しく呼吸を整えていた。

嗚呼、俺の中のツバキ像が音を立てて崩れていく。

「どっ、どうしたんだツバキ!お前マダラとそんなことする仲じゃなかっただろう!ほんの少し会わなかった間に一体何が・・・!」
「恋人同士なのだから可笑しくないと思うのだけれど・・・ねぇ、マダラ」
「あぁ、当たり前だ。愛しているぞ、ツバキ」
「ふふ・・・わたくしもよ、マダラ」

「・・・おい兄者、どうなっているんだこれは」
「そんなこと俺が聞きたい・・・!」
「取り敢えずあの二人は俺達の家に一泊させるか。このままでは行き着く先は一つだからな」

頷きあった二人は、渋るマダラと戸惑うツバキを強引に千手家へと連行していった。

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