「…瀬くん、黄瀬くん?」
「はっ!なに、何!?呼んだ!?」
「休みの予定立てようって、君が言ったんでしょう」
「うん…ごめん……」
見ると、隣の黒子っちは少し不機嫌な顔。
ああしまったと、自分を責めながら髪をかきあげる。
「寝てないんでしょう?仕事が忙しくて」
「うー…うん」
自分から誘っておいてうっかり寝てしまうなんて。
せっかく黒子っちが来てくれたのに、
(本当に馬鹿、俺…)
実際、仕事が忙しいのは本当のこと。
ありがたいと言えばありがたいけれど、バスケと仕事と恋人との時間を両立するのはなかなか難しい。
「それで、僕の休みは16日から18日までなんですが、海常の予定はどうなってますか?」
「あ…ああ。えーと、うちもお盆の間だけは部活は休みっスよ」
「仕事は?」
「えっと…入って……あ!18日!18日だけまるまるオフ!」
テンションが上がるのが自分でも分かる。
「ねえねえ、黒子っち、デートしよデー…あれ?」
黒子っちは、真顔でこっちを見つめていた。
あれこれって、と予感が浮かぶ。若干の温度差、というものだろうか。
「あ、あの、黒子っち……?」
「…なんで、そんなに嬉しそうなんですか?」
「え…だって、一日中デートできるのなんて久しぶりだから…」
普段学校も違うしお互いに部活もしているから、なかなか休みは合わない。
一日中ずっと一緒にいられるなんてすごく嬉しいんだけど、それは俺だけなのだろうか。
「く、黒子っちは嬉しくないの…?」
胸の奥がざわざわする。
黒子っちは確かに感情が読みにくいけれど、心は通っているつもりだったし、俺が黒子っちを好きなのと同じように好いてくれているものと思っていた。
でも、俺ばかり喜んでいるなんて独りよがりみたいで、そうだとしたらすごく寂しい。
「…嬉しいです」
「え…」
口元はほころんでいた。
「休みが合って、嬉しいです。一日中一緒にいられるのも嬉しい。黄瀬くんがそんなに喜んでくれると思わなかったから、それもすごく嬉しいです」
「ほ、ほんとに…?黒子っち、無理してない?」
「してませんよ。本心です」
「……」
嬉しくて、
思わず口付ける。
「ん…」
抵抗されるかと思ったけれど受け入れてくれて、胸を撫で下ろしながら。
「黒子っち、好き。…好き」
「ん」
頬にキスして抱きしめる。彼は体温が低いから、腰に回された腕からもあまり温度が感じられなかった。
「好き。ほんと好き」
「………僕もです」
「好きって言って?」
身体を離して顔を覗き込むと、顔を紅く染めて、慌てて抱きついてきた。
「黒子っち?」
「嫌です。今、見られたくない」
顔を見せまいと必死にしがみついてくる。
可愛い。すごく可愛い。
「嫌。俺の顔見て、好きって言って」
少し乱暴に身体を離して、顔を覗き込む。
さっきよりも真っ赤な顔をして、恥ずかしい、と呟いて、横を向きながら。
「……好き、です、……」
…もう駄目だ、可愛くてたまらない。
「黄っ…ん、ふ」
腰を寄せて口づける。舌で歯列を割って潜り込み、ためらいがちに差し出された舌を絡め取る。
「んっ……ぁ、ん…ぅ」
ぴちゃ、と水音が響く。
頬を紅く染めながらも舌を絡めてくる仕草が妙にいやらしい。
我慢できなくなって、彼のベルトに手をかける。
「…っ、だめです」
慌てて身体を離された。
「え…なんで?」
目の前で、潤んだ目で息を弾ませているのに、ここでやめろなんて酷過ぎる。
「…明日、黄瀬くん、試合でしょう。そのあとも仕事あるって言ってたし」
「平気、そのくらい…」
「でも、だめです、…試合は万全の態勢で望まないと、相手にも失礼ですから」
懸命に言葉を吐いた。
「…………」
相手にも。
「…分かったっスよ。今日はやめる」
「…はい」
黒子っちは安心したように息をついた。
お堅いと言えばそうかもしれないけれど、バスケを好きな君を好きになったんだから、仕方ない。
「でも、次はやめろって言われても止まらないから」
「……そうですか」
額を合わせて、お互い、笑い合った。
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