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「良かったな、ネイサン。奥さんが無事で…
じゃあ、俺はこれで帰るよ。」
「何言ってるんだ、ジュリアン!ゆっくりしていけよ。
そろそろ腹がすいた頃だろう?夕食を食べていけよ。」
「ぜひ、そうして下さい。
ちょうど、今、夕食の準備をしていた所なんです。」
言われてみれば、なにやら野菜を煮こんだようなにおいがしていることにジュリアンは気が付いた。
「いや…そんな…」
「遠慮するなって!さ!」
ネイサンに手をひかれ、ジュリアンは家の中へ足を踏み入れた。
「そうかい…じゃ、ご馳走になるよ。」
さほど広くはないが、きちんと片付いた品の良い部屋だった。
シャーリーの趣味なのか、カーテンやクッションは女性らしい色使いで統一されている。
ジュリアンとネイサンが寛いでいると、シャーリーが料理をテーブルの上に次々と並べ始めた。
「急だったので、たいしたものはありませんが、どうぞ!」
「すまないな、奥さん。
おっ!うまそうなにおいがしてるぜ!」
「さぁ、どうぞ、召しあがって下さいな。」
「ジュリアン、シャーリーはけっこう料理も上手いんだぜ。
たくさん食べてくれよ。」
そう言いながらジュリアンのグラスに酒を注ぐネイサンは、シャーリーのグラスがないことに気が付いた。
「シャーリー、今夜も飲まないのか?」
「え…ええ…」
「そういえば、ここんとこ全然飲んでないじゃないか。
どうした?体調でも悪いのか?」
「違うわ…そうじゃないの。
実はね…
言おうかどうしようか迷いながら言わなかったんだけど…
……実はね…やっと出来たのよ!」
「出来た…?
何が出来たんだ?」
「もうっ!ネイサンったら鈍いわね!
出来たっていったら赤ちゃんに決まってるでしょう!」
「……え……?!
赤ちゃんって…子供が出来たのか?!
今までずっと出来なかったのに…?
え……?シャーリー!ほ、本当なのか?」
「本当よ…」
シャーリーは頬を染めながら、幸せそうな微笑みを浮かべた。
「聞いたか、ジュリアン!!
すごい…!
あんたの言ってたことは本当だ!
アレのおかげで、もう大きな幸せがやってきた!
子供が出来たなんて、夢みたいだ…ありがとう、ジュリアン!!
本当に感謝してるぜ!」
「ネイサン、何のことなの?
アレって何?」
「それは、もうじき話すよ。
しばらくは秘密だけどな…」
そう言って、ネイサンはジュリアンに片目をつぶって見せた。
「ジュリアン!こんな嬉しいことはないぜ!
さぁ、飲んでくれ!」
ネイサンは、ジュリアンのグラスに酒を継ぎ足した。
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