「なんだ?にやにやして…
気持ち悪いな…」

『おまえは本当に言葉を知らん男だな。
にやにやではなく、にこにこだろう?』

「いいや!今のはにやにやだ。
鼻の下が伸びて気持ち悪い顔してたぞ。
どうした?女でも出来たのか?」

『おまえの頭ではそんなことしか思い浮かばんのか…
石の精に性別などないのだ。
おまえが見てるのは言わば私の仮の姿だ。
だから、女に興味がわくこともないのだ。
それに、いつそういう者と出会う機会があった?
ずっと一緒にいたのだから、そんなことがあればおまえにもわかるだろう。
それと、私は鼻の下など伸びてはおらん。』

そう言い残し、エレスは姿を消した。



「ちっ、相変わらず気難しいっていうか、気分屋っていうか…
あいつ、絶対、石の友達いないぞ。」

ジュリアンは、ブツブツと独り言を言いながら、街道を歩く。
今度の旅もまたあてのない旅だ。
一応、家の方角を目指すという大まかなことだけを決めて、後は面白そうな場所があれば立ち寄るという気ままな旅を続けていた。
ジュリアンにとっての「面白そうな場所」とは、ほとんどが石がらみの場所なのだが…



(路銀も乏しくなって来たことだし、ここらでちょっと良いもん掘り出したいもんだな。)



この所、鉱山の近くの町にはしばらく縁がなかった。
だが、次の町の近くには鉱山があるということを聞きこみ、ジュリアンは期待に胸を膨らませていた。



「やっと着いたか…」

町に着く前から、その町が賑やかな町だということが感じられた。



忙しなく大勢の人々が行き交っている。
昼間だというのに、酔っ払いが調子のはずれた歌を歌うのが聞こえた。



『ずいぶんと、品のない町だな。
おまえにぴったりではないか。』

「わっっ!
いきなり出てくるなよ!
しかも、出て来て早々嫌味な奴だな、全く。」

『嫌味ではない。本当のことだ。』

相変わらず、つまらない口喧嘩をしながら、ジュリアンとエレスは町の中を進んで行く。



「さてと…じゃ、とりあえず酒でも飲むか…」

『着いた早々、酒とは…おまえらしいな…』

ジュリアンは、一軒の酒場に立ち寄った。
昼間だというのに、酒場の中はほぼ満員状態だった。



「いっぱいだな。」

ジュリアンは店内を見回し、空いている席はないかと目を凝らす。


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