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感情の高ぶりを一瞬忘れ、ジュリアンは昨夜のことを思い返した。
そういえば、昨夜エレスは確かにそんなことを言っていた。
両方の握り拳を差し出して一方を選ばせ、そして「時間だ」と…
「確か、俺が選んだのは『時間』だと言っていたな。
あれはどういうことだ?
それがなにか関係あるのか?」
『…時間を与えるということだ…』
エレスのわけのわからない物言いがジュリアンのカンに障る。
「もっとわかりやすく言ってくれ!」
『…その石に…』
エレスはジュリアンの胸の皮袋を指差した。
『…その石に願うのだ!
子供を助けてくれ、と…!』
この期に及んで一体何を…
そう思いながらも、ジュリアンはその言葉に従うことにした。
エレスの言葉に強い説得力を感じたせいか、それとも他には何も出来ることがなかったせいなのか…
ジュリアンは皮袋からエレスチャルを取り出すと、両手で包みこみ、目をつぶって祈りを捧げた…
「どうか、あの子供を…!
あの子供を助けてくれ…!!」
……………………………
次にジュリアンが目を開けた時…あたりの様子は何も変わってはいなかった。
「フッ……
…ハハハハハハハ…」
ジュリアンの大きな笑い声が響きわたり、通りを歩く男性が振り向いた。
(…どうかしていた。
俺は一体何をしているんだ…)
ジュリアンの目の前には無表情なエレスが突っ立っている。
(そもそも、こいつが幻覚なんだろうな…
俺はきっと頭がイカレちまったんだ…)
ジュリアンの瞳からボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちた。
(ほら見ろ…
明らかに情緒不安定だ…
俺は…頭がイカレてるんだ…)
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